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そしてまた月日は経ち四年生になったある日、父親の提案でアイちゃんとアイちゃんの母親と4人で、水族館に遊びに行くことになった 側から見れば、仲の良い家族に見られているだろうが、そんなことは全く頭にない俺は、水族館に着くなりアイちゃんの手を引き駆け出した アイちゃんと試合会場や公園以外で会うのは初めてだったので凄くドキドキした あまり遠くへ行くなと言う父親に大雑把に返事をし、海水魚のコーナーで優雅に泳ぐ大きなサメや色とりどりの魚たちに目を奪われた アイちゃんは初めて見るサメや大きな魚に怖がっていたのか、俺の服の袖をギュッと掴んでひっついていた 俺はそんなアイちゃんの頭を優しく撫で、 「俺もこのさめみたいに大きくなってアイちゃんを守れる男になるから」 と真剣に目を見つめて言ったが、薄暗い照明でアイちゃんの表情はよくわからなかった そのあとすぐにこんなに大きくならなくていいよと言うので、「じゃあどのぐらいの大きさならいいの?」と尋ねたら、浴槽を眺めて、黄色くて小さな魚に指差した ガラス越しの魚の名前一覧でその魚の名前を探すと、ヒフキアイゴと書かれている 「このぐらい?黄色くて可愛い」 とアイちゃんはにこやかに笑うが、俺はムッとしてこんなんじゃ全然強く無さそうだし俺のがもうデカいし格好いいのがいい!と頬を膨らませたら、アハハと笑ってくれた そんな姿も凄く愛しくて、その日は本当に最高に幸せだった すぐにその後父親たちが合流してきて、色んな魚やイルカのショーを見てあっという間に時間が経ち、閉館時間が近づいた。 俺たちは水族館を出る前にお土産コーナーに立ち寄った 意気揚々とアイちゃんにこのサメを俺だと思って大切にしてと、一番大きなサメのぬいぐるみを父親にねだったら、アイちゃんが服を引っ張りそんな大きいの要らないよと小さく言った 「えー?でも何かプレゼントしたいよ」 こうなったら意地でも譲らない俺の性格を知っていたアイちゃんは困ったように辺りを見渡し、先ほどのヒフキアイゴの小さいキーホルダーを指さして「これがいい」と言った 「えぇ!?だからこれはぁ……!」 不満そうに膨れる俺にアイちゃんが代わりにこれをあげる、といつも肌身離さず持っていた猫のぬいぐるみを手渡した 「拓海くんもこれをぼ……わたしだと思って大事にしてくれる?」 「えっ!?でもこれって大事なやつなんじゃ!?」 「うん……。ぼ、わた、し……学校で友達とかいなくて、この子がずっと親友だったんだけど……」 そう言って猫のぬいぐるみをギュッと抱きしめたあと、続けて言った 「拓海くんに出会ってから、人見知りも少しよくなって……学校の子たちともちょっとだけ話せるようになったんだ」 だからこれはそれのお礼、と俺にぬいぐるみを押し付け 「その代わりこのキーホルダーを拓海くんだと思って大事にする」 なんて言うもんだから、俺は嬉しさでサメかどうかなんてどうでも良くなり、親の見ていないところでアイちゃんの頬にキスをした びっくりした様子で顔を赤くするアイちゃんがこんなところで…!と怒ったが、それ以上に感極まっていた俺は一生大事にするから、と少し涙目になっていたので、困ってしまったアイちゃんは眉を下げてはにかんだ 初めて出会った時からずっと手に持っていたとても貴重で大事なものをくれて、俺は天にも上る気分だった その日の夜にすぐにぬいぐるみをベッドの横の棚に置き、いつもアイちゃんと一緒にいるような気持ちで毎晩ぬいぐるみに話しかけた

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