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軌跡をたどる

「優斗、起きて」 頬にそっとキスを落とされ、静かに目を覚ます いつもなら驚き恥ずかしさと怒りでカッとなるようなその行為が、今日は何だか少し心地よく、妙に懐かしい気分になった おはようと微笑む東の顔に、複雑にも安心感すら芽生えていた 寝惚け眼のまま身支度をし、東に連れられて家の前に構えていたタクシーに乗せられた タクシーに乗っている東は真剣な表情で、全く口を開かない 俺はそれを見て少し不安な気持ちが押し寄せた 記憶を取り戻す事もそうだ。もし仮に全てを思い出したとしても、俺が今後東をどう思うのか全く想像が出来ない 本当に恨んだり憎んだりするのだろうか それよりも、もっと別の感情が働きそうで、それが一番の気掛かりだった そうこうしている内に、タクシーは目的地に着き、俺たちを降ろしてまたすぐに走り出した 辺りを見渡すと、優斗の目に映ったのは公共の施設である総合体育館のような場所だった やはり初めて来たとは思えない光景で、頭にモヤがかかったような歯がゆい気持ちになる 「ここ、俺が小さい頃、よく練習試合をしてて、優斗とはここで初めて会ったんだ」 そう言って東は手を引き、体育館の中に入る そのまま客席に上がり、一番前の席に座らされる この日も子供たちが柔道の練習試合をしているようだった 「ははっ、懐かしー。優斗、ここに座って俺のこといつも応援してくれてたんだよ」 そう言って優しく微笑む東の顔が一瞬あどけない少年の顔に見えた 「………。」 頭のモヤが強くなる。優斗は顔を逸らし、試合を行っている子どもたちを見た。審判の合図とともに、体の小さな男の子が大きな子に一瞬で投げられている その光景が二重に重なる。今見てる景色とは別の光景が脳内に映り、目眩を起こす 「……ッ」 「アハハ!小さいん時の俺そっくり!」 ケラケラと笑う東を他所に、少し気分が悪くなった優斗は、俯いてしまう それを見た東が心配そうに声をかけた 「優斗!?大丈夫か?……少し出ようか」 東に背中を支えられながら体育館を後にする 少し歩こうと東に言われ無言のまま数分歩き続けると、どこか趣のあるカフェに着いた 「昔よく親父に連れられてここのパン一緒に食べてたんだよ。朝飯まだだったし、ちょっと寄って行こうか」 東に手を引かれ妙な懐かしさを感じさせるベーカリーカフェに入った 何でも好きなものを食べていいよと東が言うので、数多く品揃えがある中で、出来立てと立て札が立てられているメロンパンを一つ取った 「プッ……」 その瞬間東が噴き出す 怪訝に思った俺は、何だよと眉を顰めながら聞いた 「いやー……優斗、ここでいっつもメロンパン食べてたんだけど、記憶失くしても好みは一緒なんだなぁと思って」 東が嬉しそうに目を細める 「そ、そうなのか……」 少し気恥ずかしさを感じたが、そういえば東は昼飯を用意してくれる時、よくメロンパンを渡してくれていた。その時は別に何とも思わなかったが、確かに以前よりよく食べていたような感覚を覚える それからまた適当にパンを選び、モーニングに付いてくるドリンクと共に、席に着いた

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