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「ちょっ!待ってよ~、優斗~」
間延びした調子で追いかけてくる東に嫌悪感さえ抱きながら公園から少し離れた所で立ち止まり、東の方を向きキッと睨みつける
「俺……帰る」
「ええ?何で!?せっかく思い出してきてるのに!」
「だからだよ!思い出すのが嫌になってきたから帰る!」
そう言い捨て、東を置いて歩き出す優斗に、人目も気にせず後ろから強く抱きしめられた
「ばっ、何してっ!?離せよ!」
「いーや、絶対離さない。だって約束したじゃん、優斗が思い出させてって言ったんだよ?」
「ッ、だから!もう良いんだって!思い出したくない!!」
必死に振り払おうと躍起なってもやはり東の屈強な肉体はビクともしない
「……ねえ、どこまで思い出したの?」
その言葉に激しく動揺する
「……だ、だから、何も思い出してないって……」
明らかに声色が変わった様子に、東は畳み掛けるように問いただした
「俺が結婚しようって言ったこと?」
「……。」
「俺のことをヒーローみたいだって言ってたこと?」
「……ッ」
「拓海くんが世界で一番大好きって言ったこと?」
「そんなことは絶対言ってない!!」
いわれもないデタラメを言い、押し黙っていたのが爆発した
それは逆に前の二つを思い出したということへの肯定になってしまう
「アハハ、それを言ったのは俺だっけ?アイちゃんが世界で一番好きだって」
未だに離さない東が耳元で囁く
優斗は心臓が弾けそうになるのを必死に耐えては、その呼ばれ方すらも、懐かしいと思える程になっていた。
通りすがりがコソコソとこちらを見ているのは気づいていたが、抵抗するのも疲れてしまった
「ね、あと一箇所だけ……付き合ってよ」
やっと抱き止める両手が離れ、そのまま手を繋がれ歩き出す
頭に浮かぶ過去の断片的な映像が延々にフラッシュバックを引き起こし、クラクラと目眩すら感じ始める
そしてそのまま次は電車に乗り込み、隣町の海の見える海岸に連れられた
ここにも確かに懐かしい雰囲気があり、言われずともある方向に目を向ける
そこには大きな建物が立っていて、外観だけですぐに水族館だと分かった
「……まさか野郎二人でここに入ろうってわけじゃないよな」
「もちろんそのつもりだけど、どうしてもって言うならまた女の子の格好してみる?」
「ッッッ、二度とするか!!」
それを聞いて東はニヤ、と不敵に笑う
優斗もその顔を見て明らかに墓穴を掘ったと青ざめた
確かに断片的にだが、自分が忘れていたと思われる記憶が徐々に回復していることを。
その記憶の中に、女装をさせられたという要らない記憶まで思い出していた事を悟られた
もう何もボロを出すまいと口を噤み、東の買った入館チケットを手渡されると、一人で足早と中に入って行く
後ろからちょっと待ってと呼びかけられたが無視をして歩を進めていく
すると突き当たりまで歩き続けたのか、先に進む道がなくなっていた
周りを見るとこのエリアはクラゲコーナーみたいだった
ふよふよと自由に遊泳するクラゲたちを見つめて自分の姿が重なる
「俺も記憶を無くしてからずっとこんな感じなんだよな…」
ボソリと独り言を言い、自分の本当の気持ちがどうしたいのか分からなくなっていた
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