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「………ん」
薄明かりの中、目を覚ます
ゆっくりと目を開き、暗い照明をボーッと見つめながらまだはっきりとした意識が戻っていない
すると隣から声をかけられる
「優斗、起きた?体調はどう?」
頭を優しく撫でられ、その方向に目を向けると、東がベッドの横の椅子に掛けて、上体をベッドに倒しこちらを心配そうに見つめている
「……俺、いつの間に…」
何度こいつの前で意識を手放したことだろう
その度にいつも東は俺の面倒を甲斐甲斐しく見てくれている
そんな東を見て、胸が締め付けられる感覚に陥った
あぁ、俺、全部……
頭に浮かぶ断片的な映像がパズルのように繋ぎ合わさる
俺の感情も確かなものに変わっていった。
東の顔が見れない
「優斗、俺、ずっと気になってたことがあるんだよね」
頭を撫でながら顔を背ける優斗に呼びかける
「俺は小さい頃ずっと優斗の事を女の子だと思ってたんだけど、優斗はその時……」
「う、うるさい……」
声が震える
ずっと気がかりに感じていた正体が明かされた
どうしようもなく紛れもない事実
別に隠していた訳じゃない
ただずっと東が気づかなかっただけ
小さい頃の俺は、友達同士に向ける感情ではない事に気づいたのは、割と早かった。
東が俺に向ける目が、態度が、好きな“女の子”に対するものだということ
それが怖かった
男と気づいた時に東がどう思うのか
友達じゃいられなくなる?
騙されたと憤る?
俺の元を去ってしまうんじゃないかと毎日不安だった
いつしか東の父親や、自分の母親に俺の名前を呼ぶ事をやめるように念を押してしまった
東の望むアイちゃんを演じるしかなかった
だってそれはどうしようもなく、
ーー拓海くんのことが好きだったから。
だからずっと言えずにいた。
いけない事だと分かっているのに、嫌われたくなくて必死で、東と二人きりの時だけ女の子の格好をした
それを見て喜ぶ東の顔が好きで、俺も満たされていた
でも年々年を重ねていく内に、このままじゃダメだと悟った
東が俺に手を出した時に、もうこれ以上は隠し通せないと覚悟を決めた
次の試合の後、ちゃんと話そうと
東ならきっと、それでも俺を……
そして土曜になるより先に、俺は母親に連れられて東の家に行き、父親に憤慨する彼の姿を見て絶望した
嫌だった。
ずっと言えずにいた本当のことを知ったあと、あの優しい拓海くんが俺に憤る姿を見たくなかった
怖くて悲しくて仕方がなかった
だから俺は、東の前から姿を消した
拓海くんの記憶に、大好きな女の子のアイちゃんの姿のままで終わりにしようと思った。
母親に何度も説得され、東の元へ行こうと手を引かれるが、拒絶した
その時は父親は俺の見てないところで母親に暴力を振るっていたから、母親が東の元へ行こうとするのがおかしいと思っていた
昔から関心も向けなかった父親だが、俺に暴力を振るうことはなかった。
今思えば、それはずっと母親が守ってくれていたからなんだと今更ながらに気づく
そして母親の顔が酷いアザを作った頃、父親が飲んだくれて寝ている時に、東の父が来て俺たちを連れ出そうとした
それすらも酷く拒んで、母親に対する裏切りに憤り、自ら自分の家の鍵を閉めた。
その日から毎日母親は学校帰りの俺の事を待ち伏せしていたが、俺の気持ちが変わることはなかった。
そして最後に見たのは、俺の小学校の卒業式の日
俺の悪夢の始まった日
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