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第3話 大嫌い、じゃ――①
次の日、グランは本当にまた現れた。次の日だけじゃない。その次の日も、さらに次の日もだ。
朝か昼、陽の高いうちに彼はやってきて、リンネの姿を見つけるたびに、心の底から嬉しそうに笑顔で手を振る。はじめ、リンネはその行動の意味も良くわからなかったが、見よう見まねで小さく手を上げ返してやるのも、まあ面倒ではないと、いつしか思うようになっていた。
リンネと共にいる間、グランは何か特別なことをするわけではなかった。リンネが山菜を摘む時にはついてきて手伝ったし、料理をしようとすれば薪を割った。
ただ、グランはいつだって楽しそうに話した。話の内容は、彼が旅しているときの思い出話の時もあったし、まるっきりの創作の時もあった。危険な洞窟を命からがらに脱出した時の話を語るのと同じ口で、美しい姫と農民の恋物語を語る。グランの語り口はいつも軽妙で、鮮やかに瑞々しく、リンネの脳裏に風景を浮かび上がらせた。
グランの存在がリンネの世界に溶け込むまでに、そう長い時間はかからなかった。数週もしないうちに、グランが来るのは当たり前のことになっていた。
まだ完全にグランを受け入れ切ったわけではないが、抱きとめられた時ほどの強い熱に襲われることもない。
リンネに自覚はなかったし、誰かに指摘されたとしてもきっと否定したが、二人の間に流れる空気は非常に穏やかで、心地よいものとなっていた。
とはいえ、グランは毎日リンネの元にやってくるわけではなかった。普通にお別れをした次の日から、数日姿を見せないこともあった。
そのたびに、グランがもう二度とここに現れないのではないか、という考えがリンネの脳裏によぎった。
――いや、だとしたら何の問題があるのか。別に約束をしているわけじゃないんだから、来なかったところで何もおかしくない。むしろせいせいするくらいだ。このまま明日からも来なくたっていい。それを望んでいたはずだ。
リンネがそんな風に考えながら眠りについた次の日に限って、グランはまたやってくる。仕事があってごめんね、と言いながら自然な仕草でリンネの髪に触れる。それを嫌とも思わなくなっている。
「俺がいなくて寂しかった?」
「静かでよかったよ」
「俺は寂しかったな」
「知らん、勝手に寂しがってろ」
ああ、まったく調子が狂う。
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