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第4話 眩しい世界④

「だれかから髪かざりもらったことある?」 「ぼ、僕に聞いてるのか?」  声をかけてきたのは見知らぬ少女だった。おそらく、親に連れられてきたが、退屈なのだろう。じぃっと純粋な目で見上げられる。どうしたらいいのかわからずに、グランに視線で助けを求めたが店員との話に夢中でこちらに気付かない。  隣にいるって言ったくせに、僕を放置するなよ、と少し天秤が傾く。 「ねえねえ」  ぐいぐいと服を引っ張られる。これまでのリンネだったら無視していたかもしれないが、グランはそうはしないだろう。 「……ないよ」  ぶっきらぼうに答える。  人から何かを貰ったことなんてない。誰もリンネのことなど気にかけてくれはしなかった。  そこまで考えて、ふと、あの甘さを思い出す。あれは、贈り物と呼べるものだった。貰った時の感情は忘れ難かった。 「私もないや」 「ふーん」 「あのね、髪かざりをあげるのはね、ずっといっしょにいたいっていう意味なんだって、お姉ちゃんが言ってたよ。私もかっこいい王子様からもらいたいなあ」  うっとりとしたように少女は呟く。馬鹿馬鹿しい、とリンネは心の中で吐き捨てた。贈り物にわざわざ意味を持たせるのも、ずっと一緒だなんて誓うのも。  そんな夢物語を信じられるなんて、よっぽど幸福な脳をしている。人間なんていうものは、受け入れられないものを排斥し、傷つける醜い生き物なのに。  そう考えているのに、ふと、脳裏にグランの姿がよぎった。この前キャンディーを差し出してきたように、グランがこちらに向かって髪飾りを差し出してきたならば、自分は一体何を思うだろう。  リンネは頭を振って奇妙な想像を必死に頭から追い出した。  グランのことは、確かに嫌いじゃない。感謝していることだって、さすがに認める。だが、別に今の状況がずっと続くだなんて思ってはいない。  あいつが人並外れて優しく甘っちょろいというだけだ。それ以上に特別な意味なんてない、時が経てばあいつはまた旅に出る、そうなれば今まで通り、そうだろう?  自分に言い聞かせるリンネはよっぽど複雑な顔をしていたのか、少女は不思議そうに見上げていたが、やがて母親に呼ばれて走り去ってしまった。  入れ替わりでグランが近くまでやってくる。考え込んでいたリンネはそれに気づかず、肩を叩かれたところで飛び上がった。 「うわあ!?」 「ごめん、びっくりさせた?」 「い、いや、大丈夫だ。少しぼーっとしていた」  リンネは誤魔化しながら、グランの顔を見た。自分とは裏腹に、小首を傾げた姿は普段通りで、リンネは思わずその顔を睨む。 「どうかした? なんか欲しい物でも見つけた?」 「べ、別に何もいらないっ。それよりお前の用事は終わったのか」 「うん、ばっちり」  グランはにっこりと嬉しそうに両手を広げてみせる。さっきまで店員と何を話していたんだ、とか、一体何を買ったんだ、とか聞きたかったが、意識しているみたいで、躊躇してしまう。  ――ぐぅ。  そこで、急にそんな音が聞こえてきた。一拍遅れて自分の腹の音だと気付く。少しうろうろしただけなのに、なんだか、普段の生活よりも腹が減る。  腹を撫でたリンネの姿を見て、グランが微笑んだ。 「そろそろお昼にしようか。リンネに食べてほしいものがあるんだ」 「っ、……そうか」  一瞬心が浮足立ったが、すぐに恥ずかしくなってそっぽを向いた。

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