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第4話 眩しい世界⑤

 昼食は、町の中央の広場で食べることとなった。芝生の上で人々が遊んだり、休んだりしている。穏やかな陽光と相まって、平和そのものといった光景だ。  中心から少し離れた木製のベンチで、グランが広げたのは、お気に入りの店で買ってきたというパンだった。  パンだったら知っているぞ、と思った。だが、一口食べて驚いた。  まず、リンネの知るパンというのは、堅くて乾燥したものだ。だが、グランが買ってきたパンはふかふかとして、持っているだけでも手が心地よい。かじりつくと、ほのかに甘い香ばしさが口の中に広がった。挟まっているチーズとハムの塩気もちょうどよく、思わず飲み込むのも忘れて口いっぱいに頬張ってしまう。そのせいで何も言えなくなったが、目は口程に物を言う、という言葉の通り、リンネは見てわかるほどに瞳を輝かせた。 「美味しい?」  グランが手を伸ばして、頬についたパンくずを拭う。普段だったら振り払ったかもしれないが、食べることに集中しているリンネは大人しく受け入れる。その姿に、グランは野良猫を見守るような顔で目を細めた。  空腹だったこともあって、リンネはすぐにパンを平らげてしまった。満足して一息ついたリンネを、グランは頬杖をついて穏やかに見ている。  そこで、二人は、しばし黙った。西に傾きかけた陽光が二人の頭上から降ってくる。あたたかくて、眩しくて、リンネは何故だか口を噤まされてしまった。下手な言葉を発すると、自分らしからぬことを言ってしまいそうだった。  グランも黙っている。黙って、光が射す方を見ている。リンネもまた、同じ方に視線を向けた。二人の間に言葉はなくとも、同じ空気を共有している。  この時間がずっと続けばいいのに。  ふと、仄かな思いが胸に浮かぶ。リンネはそれを否定しようとして、やっぱりできなかった。過去の自分に睨まれたって、ここがいい、と今この瞬間は確かに思った。 「リンネ」  名を呼ばれて、リンネは彼の方を振り返る。陽光を浴びたグランの髪は琥珀のように透き通り輝いていて、こんなに綺麗な色があるのかとリンネは目を細めた。  自分を見るグランは、真剣な顔つきをしている。青い眼に射抜かれて、リンネは動くことも出来ずに小さく息をのんだ。 「ちょっと目を瞑って?」  突然の要求にリンネは頭に疑問符を浮かべながらも、素直に従った。それは信頼のあかしだ。今、何をされてもわからない。  そっと頭に何かが触れた。髪が少し引っ張られるような感覚、少し遅れて、ひんやりとした金属の感触とわずかな重みを認識する。  ――これって。  先ほど宝飾店で聞いた話を思い出す。  ――髪飾りをあげるのはね、ずっと一緒にいたいっていう意味なんだって。  リンネがはっとして思わず目を開けると、グランの顔がすぐ目の前にあった。  え、と思ったところで、唇に柔らかいものが触れる。グランに唇を押し当てられているのだと、すぐに気づいた。数秒して、感触が離れる。リンネは目を丸くしてグランの顔を見た。

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