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第4話 眩しい世界⑦

 リンネの返事にグランは一瞬だけ眉根を寄せて泣きそうな顔をしたが、すぐに破顔した。浮かんだ表情の温かさに、まるで感覚を共有しているかのように、心がぽっとなる。  しばらく二人は言葉もなく見つめ合っていたが、やがて、グランは照れたように立ち上がった。 「お、俺、何か飲み物買ってくるよ」 「あ、ああ」  確かにさっきから体が熱くて、緊張も相まって喉が渇いていた。  残されたリンネはベンチの上でなんとなく身を縮めて、ぼんやりとした。時折指先で唇に触れて、そうすると先ほどの感触も思い出されて、ますます顔が熱くなり、手の平で自分を仰ぐ。その繰り返しだ。  それから、ふと思い出して頭の髪飾りに触れた。指先で金属の輪郭をなぞる。なめらかな曲線は感じ取れるが、さすがにどんなデザインかはわからない。確かめたいと思って、でも、グランがつけてくれたものを外すのは惜しかった。あとの楽しみにしよう。  この後もグランはまだ時間はあるだろうか。さっき見かけて、気になっていた店があった。今日じゃなくても、次の機会でもいい。僕が望めば次の機会があるんだ。そしてその願いは、町を飛び出すことだってできる。たとえば、海を見ることだって。  しばらくリンネは物思いに耽っていたが、ふと、なかなかグランが帰ってこないことに気付いた。十分、二十分と経ったところで、さすがに不審に思い始める。  もしかして、何か良からぬことに巻き込まれているんじゃないだろうな。ふと、悪い想像が胸をよぎる。一番初め、この町に足を踏み入れる前に抱いたのと同様の不安だ。  ――探しに行ってみようかな。  ――でも、一人で町を歩けるだろうか。  リンネは少し迷ってから、立ち上がった。ここでじっとグランを待っている方が耐えがたかった。  広場を離れて大通りの方に向かう。さっきまでは楽しげに聞こえた喧噪も、今は騒がしいざわめきに聞こえて不安を煽った。人々の間を抜けて、走る。どうしてこんなに人が多いんだろう。向こうから来る人にぶつかりそうになって、バランスを崩しかける。 「グラン、どこだー?」  呼びかけても、町の中で不安げな声は響かない。こういう時に大きい声を出す方法をリンネは知らなかった。  大通りが無限に広がっているような気がして、少しずつ息苦しくなってきて、リンネは裏路地にそれた。大通りからほんの少し外れただけなのに、喧噪は遠ざかって薄暗い。  静かなのも暗いのも、すっかり慣れているはずなのに、無性に不安に襲われる。  リンネは疲労からではなく、それ以外の何かに足を取られたかのように立ち尽くした。 「グラン……」 「見つけたぞ」  不安にかられて彼の名前を零したところで急に声をかけられたので、リンネは肩を震わせてから、慌てて後ずさった。

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