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第6話 永遠なんてなくっても④

 グランはしばらくリンネを無言で見下ろしていたが、やがて乱れたローブの裾を丁寧に直して、今日はもうおしまい、というような顔をした。 「そろそろ寝ようか」 「待て」  リンネは力の入らない手でグランの腕をつかんだ。 「……お前のことも、きもちよくしたい」  やられっぱなしは、嫌だ。  小さく、拗ねた声で呟くと、グランが驚いて目を見開いた。それから困ったような顔をして、ゆっくりと首を振る。 「いや、俺はだいじょう……」  グランが言いかけたところで、リンネは彼の頬を両手で挟んだ。間抜けに突き出された唇に、今度はこちらからキスしてやる。距離感をうまく掴めなくて、ほとんど激突したようになったが、意図は伝わっただろう。 「ずるいだろ」 「え?」 「僕はこんなに、どきどきして、おかしくなりそうなのに、お前だけ普通なのは」  リンネの言葉に、グランは戸惑って視線を巡らせた。だが、じぃっとリンネが目を逸らさずにいると、口を開いて、やっぱり噤もうとして、そんなことを何度か繰り返したうちに観念したような顔でぽつぽつと言葉を零し始めた。 「俺だって普通じゃいられないよ。さっきからずっと平静を装っているけど……リンネにもっと触れたい、リンネのことを、もっとめちゃくちゃにしたいって……思っている」  俯きがちに、指先を落ち着きなく擦り合わせる様は告解をする姿にも見える。深刻そうなグランを前にして、リンネは必死で考えを巡らせる。 「めちゃくちゃっていうのは、具体的には……?」 「……君を抱きたいってこと」 「いいぞ」  なんだそんなことか、と上体をあげて両腕を広げると、グランもそれにつられたように腕を広げた。空いた胴体に抱き着くと、同じ力で抱き返される。しばらくグランの存在を味わっていると、髪の毛をくしゃくしゃに掻き回された。  なるほど、めちゃくちゃとはこういう事か、と思っていると「って、そうじゃなくて!」とグランが大きな声をあげてリンネから距離を取った。 「違うのか?」 「そうじゃなっ、くもないんだけど、俺が言ってるのは……」  グランはぶつぶつと独り言を呟いたが、やがて覚悟を決めたようにリンネにずいと身を寄せた。妙に真剣な顔に気圧されて、リンネは思わず背中からベッドに倒れこむ。  グランが手を伸ばし、するりとリンネの脚を撫でた。膝から始まり、太ももを通り過ぎた手は臀部にまで至る。奥まったところをつつかれて、リンネはびくりとした。 「ここに、俺のを入れたいってこと」  衣擦れの音とともに、リンネの脚に硬いものが当たる。布越しでもわかる熱に、リンネは本能的にそれが何であるかを理解する。  リンネの思考回路が一瞬フリーズする。といっても、別に嫌だとか怖いとかではない。グランの言っていることがうまく想像できなかったためだ。だが、グランはリンネの反応を拒否と捉えたのか慌てて首を振る。 「ごめん、やっぱり忘れて!」 「……いいぞ」 「……え?」  リンネは仰向けに横になると、腕を広げてグランを澄んだ瞳で見上げた。腹を晒す無抵抗のポーズ。 「お前にだったら、何をされてもいい」  嘘でも、強がりでもない。仮にグランに食われたとして、最後の一瞬までグランを恨むことはないだろう。  それが、信じている、愛している、という事だ。

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