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第6話 永遠なんてなくっても⑤

 リンネは手を伸ばして、グランの頬に触れ、眦をそっと指先でなぞった。 「僕が知らないこと、全部、教えてほしい」  直球で誤魔化すところのない正直な言葉にグランは目を見開いた。一瞬リンネから不自然に目を逸らそうとして、だが、一度瞠目すると強く頷いた。 「……わかった。でも、嫌だって感じたら、すぐに言ってね。殴ってくれてもいいから」  しつこい、と言いかけたが、グランがあまりにも真剣な顔で言うので、リンネも真剣な顔で頷いた。それを見て安堵したように微笑むと、グランは枕元のテーブルに手を伸ばし、瓶からオイルを手に出した。  彼の一挙手一投足に緊張感が走る。だが、決して怖くはない。大丈夫、と頭の中で優しい声がリフレインする。  オイルでぬめりを持った指が秘部の淵を確かめるように何度かなぞる。その感覚もかなり異質で背筋に鳥肌が立ったが、当然それだけではなく、節くれだった指が狭いところをこじ開けるように中に入ってくる。 「っ……」  痛くはないが、強い違和感と圧迫感があり、リンネは眉間にしわを寄せた。身体に思わず力が入る。強張ったリンネを優しく溶かすように唇が降ってきた。  唇を軽く食まれてから、角度をつけて口づけられる。くちゅ、と唾液が混ざり合う水音が頭の中に響いて思考回路の一部が塗りつぶされる。  これ、すきだ、きもちよくてとけそうになる。 「んぅ……ふぁっ……」  息継ぎの合間、甘えた猫のような声が自分の喉から出て、リンネはどきりとした。声を抑えようとする間もなく唇を甘く食まれて身体から力が抜ける。その隙を縫うようにして、後ろを探る指はさらに奥深くにまで入り込んでくる。  だが、彼の手つきは決して早急なわけではない。ゆっくり、じっくりと内側を広げるような指遣いは明確な刺激を与えず、じわじわと奇妙な感覚だけをリンネに押し付けてくる。そのもどかしさに、身を委ねようという思いとは裏腹に身体が暴れてしまう。  宥めるようにグランの手がリンネの頬を撫でた。柔らかさを感じていると、ゆっくりとその手が下に降りていく。ローブの襟元が開かれて、熱い肌が外気にさらされる。一瞬だけ、思考がクールダウンした。 「ゆっくり、息して?」 「んっ……はぁ……」  目を合わせて、優しい瞬きと同じ速さで呼吸をする。幽かに上下した胸元にグランが触れた。その先端を指先がくすぐる。 「っ、なんだっ……?」  グランの行動の意味が解らず、思わず声をあげてしまう。そんなところを触られたって乳は出ない。  だが、グランがあまりにも真面目な顔でそこを軽く引っかいたり、いじったりしているものだから、なんだか子供みたいでおかしくて、くすぐったさと相まって思わずふっと笑みを零す。  次の瞬間、甘い痺れが広がってリンネは思わず首筋をのけぞらせた。 「あ……っ?」  その反応を見て、グランはぱっと顔を輝かせた。こんな状況でも素直すぎる笑顔に好感を抱いたのも束の間、愛撫が再開され、更なる刺激に襲われた。しまいには口に含まれ、舌先で舐られる。さっきまではくすぐったいだけだったはずなのに、今は明確な快感があって、身体の反応を抑えることができない。 「あっ……ふあ、んっ」  そちらに気を取られているうちに、後ろに挿入される指は三本に増やされていた。それぞれがばらばらに動いて内壁を探り、奥を暴いていく。優しいのに容赦のない指が、ある一点に触れた瞬間、これまでのぬるま湯のような感覚とは全く違う、強い衝撃がリンネを襲った。 「やっ……なに、それ、やだっ」  明らかな異変に、リンネは身をよじって訴えかけたが、グランの手は止まらず、むしろその個所を何度も押し込んだりこすったりしてくる。その度に痺れが広がって、頭が茹だりそうになる。  このまま自分がどうにかなってしまいそうで怖くて、リンネはかぶりを振って闇雲に手を伸ばした。宙を舞う指先を、大きくて温かな手が握る。 「だいじょうぶ、怖くないよ、気持ちいいだけだから、ね。信じて」  「信じて」という言葉と、繋いだ確かな体温にリンネの恐怖心は消え失せる。代わりに純粋な快感がリンネの身体を包んだ。

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