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第5話 一つのつがい

 背の高い倉庫のような建物の重く頑丈な鉄扉を、シンが長くしなやかな腕で押し開けた。するといきなり、食べ物や香水の香りが大きな波のように苑人に襲いかかった。立ちくらみを覚えた苑人が、重心を失ったヨットの帆柱のようにゆらりと傾き、壁に手をついた。  間髪を入れずコスが苑人の両肩を掴み、苑人は倒れずに済んだ。 「大丈夫か、苑人?」 「ありがとうコス、大丈夫だよ。少し気分が悪くなって」  スタジオの中はあちらこちらで金属が擦れ合う音や、誰かに指示を出す人達の大きな声が聞こえてくる。 「騒がしいだろ。一見華やかな世界に見えるけれど、写真に映らない部分は、どこもかしこもまるで戦場だ」  シンの言葉を聞きながら、苑人は目映い光の当たらない場所に視線を移した。 「渋谷の雑踏とは違う。皆んなで何かを作り上げようとしているんだね」  コスが苑人の頭に手を置いた。 「そうさ。バラバラめくられる雑誌の一枚一枚は、沢山のスタッフの努力の結晶なんだ。皆んなで作り上げているんだ」  後ろに控えていたえりこが進み出て、左手で苑人の手を取ると右手でスポットライトの中心を指差した。 「あそこにあなたの未来があるのよ、エント」  苑人の両頬に朱が差し、瞳は周りの光を集めてキラキラと輝いた。 「さあさあシンとコスは仕事よ。さっさと着替えて頂戴。今日はちょっと着替えが多いから、長くなるわね」 「オーケーえりこ。エントのことは頼んだよ」  シンがえりこの肩に手を置き、言葉をかけた。 「任せておいて。まああんた達ほど過保護にはしないけどね」  コスが左目を閉じ、えりこにウインクを投げた。 「私には魔法は効かないわ」 「そうか、魔女には敵わないな」 「ちょっとコス? 魔女とは何よ!」  コスは笑い声を上げながら、シンの背中に腕を回した。 「ちょっと、えりちゃん? 誰よその子? あんたまだ隠し球持ってんの? やだもう。あんたとアタシの仲じゃない。名前は、なんての?」  立て板に水とばかりに話し掛けてきたのは、カメラマンの立木とおるだ。 「スタッフ~! ちょっとうちのスタッフ! 何をぼさっとしてんの! 契約書、契約書持ってこーい! スカウトの手間を省いてくれたんだから、えりこ嬢にディレクターチェア持ってきて。もう、早くしろブス!」  呼ばれた女性達は立木の呼びかけに反応もせず、まるで夢見心地といった様子で苑人を見つめていた。 「シン、俺たちもうかうかしていられないな」 「そうだな、コス」  不意にコスが膝を折り、苑人の右頬にキスをした。そして左頬にシンの唇が優しく触れた。暗がりのあちらこちらで、三人を冷やかすようなヤジや指笛が飛び交う。  だが苑人は少しも動じることなく、にっこりと微笑み、二人を交互に見つめ返した。  シンの背中に腕を回し、コスがリードするように衣装が並べられたスペースに向かって歩きだした。  ヤジはいつの間にか悲鳴のような嬌声に変わっていった。 「あーあ、何だか長い一日だったな」  コスがため息混じりに呟いた。 「先にシャワーを浴びてこいよ、コス」 「そうだな。今日も暑かったからな。じゃ三人で一緒に入るか?」  苑人がシャツを脱ぐ姿に、シンとコスの二人は目を奪われていた。不躾だと分かっていても、苑人の白く美しいうなじ、肩から腰にかけて流れるような流線型を描く背中、そして愛らしくぷっくりと膨らむ尻から太腿、ふくらはぎへと視線を落とした瞬間に、二人は思わず生唾を飲むほどの興奮を覚えた。  苑人は流れ落ちるシャワーの雫から伝わる熱さではなく、それが自身の身体から湧き上がる熱量だと分かっていた。 (今夜は何かが違う)  苑人は予感のようなものを感じていた。そしてそれは自分自身が押し開くべき扉なのだということを。 「エント、どうした? 考え事か?」  苑人の気持ちの揺らぎに一番敏感なのはシンだった。同時にそれを感じていて、すぐに先回りしてくれるのはコスだ。  苑人は自分からシンにキスをした。  コスの右手は苑人の左肩に置かれたまま、じっと自分の順番を待ってくれている。  苑人にはもう迷いはなかった。この人たちならきっと自分の全てをさらけ出しても受け入れてくれる。  そんな安心感が苑人を大胆にしていった。苑人は自らの股間が膨らみを増していくことを隠さなかった。 「エ、エント?」  二人の動揺はほんの一瞬のことだった。  シンが苑人の頬を両手でそっと掴みキスを落とした。  コスは後ろから苑人のうなじにキスをした。そして苑人の身体に打ち付ける雫から苑人を守るように、柔らかな尻の双丘を掌で包み込んだ。  コスの熱いため息が苑人の耳元に届くと、エントはビクンと身体を震わせた。  シンは硬さを増した苑人の股間の膨らみに手を添えた。 「ふ……んんっ」  シンに塞がれた口元から、苑人はふっと艶やかな吐息混じりの声を漏らす。 「風邪を引く前に寝室へ行こう」  シンとコスの股間もはち切れそうなほどに硬さを増していた。  名残惜しげに苑人の唇を離したシンが、二人を促した。  ベッドに仰向けに横たわるシンとコス。その真ん中に苑人はぺたりと腰を落とし、二人の唇に交互にキスを降らせた。 (これじゃ足りない)  苑人の顔に、困惑に似た感情が浮き上がる。その不安を察したのか、シンとコスは同時に身体を起こし、そっと手を添え苑人を仰向けに寝かせた。苑人の顔にはまだ僅かに戸惑いが纒わりついていた。 「エント、愛しているよ」  苑人には理解できた。身体の右側に触れた指がどちらのものか。左の胸に触れた指が誰のものかを。  高鳴る鼓動を二人に預け、苑人は背中を仰け反らせながら涙を零した。 「エント、怖いのか?」  シンの言葉が苑人の頬を撫でるようにかすめる。 「ううん、怖くなんかない。僕、僕、嬉しくて」  言葉を詰め、苑人はしゃくり上げた。 「エント!」  コスが絞り出すように愛おしげにその名を呼んだ。 「前戯もできないほどエントを欲しがっているんだ。挿れてもいいか? エントと早く繋がりたいんだ」 「僕も、シンとコスが欲しい。二人と早く繋がりたい」  シンはゆっくりと苑人の上に被さり、強張った雄根を苑人のアナルに当てがうと、しなやかな腰をぐっと押し付けた。ゆっくりと、ゆっくりと。 「あああっ……!」  切なげな声が部屋に響く。その唇をコスが優しく塞ぐ。ゆっくりと前後に腰を打ちつける波のような動きに合わせ、苑人の身体が脈打つ。  ピンク色に光を集める苑人の乳首に、コスの唇が引き寄せられ、ぴちゃりと音を立てる。その激しくも柔らかな愛撫に、苑人の声は次第に艶を帯びていく。  すっと身体を離すシンと入れ替わりに、コスが苑人を抱きしめ、苑人の敏感になったアナルに自らの昂りを沈め込んでいく。 「あああっ……コス、コス! ぐぅっっ…… ああっーっ!」  異なる音階を奏でるように苑人の喘ぎがひときわ大きくなる。その口元に、シンの滾る強張りが押し入っていく。 「うぐっ、んああっ」  苑人は必死にその屹立したものを、淫らな音を立てながら咥える。 「エント……気持ちいいか?」  コスの上ずった言葉が苑人の耳から侵入し、敏感になった苑人の五感に響き渡る。シンの昂りから口を離し、口元から溢れる唾液とシンの先走りを垂らしながら、苑人の淫らに開いた口がコスの唇に辿り着く。コスは腰の動きを止めることなく苑人の口元を吸い上げた。 「エント、凄いよ。お前は淫らで美しい」  二人の口元にシンの唇がかさなり、三つの口元から漏れる熱い吐息と混ざり合う唾液を、ぴちゃぴちゃと誰からともなく啜り上げる音が辺りに響き渡る。  三人の影は完全なるひとつがいになり、決して離れることはなかった。 「エント、もし嫌なら断ってくれていい。コスと俺を一緒に受け入れてくれないか?」  苑人の心臓がどくんと跳ねた。そして同時にシンの言葉の意味を理解した。  苑人には分かっていた。シンとコスの二人と身体を合わせることで、最後に成し遂げようと望む真の図形を。もちろん経験がある訳では無い。不安もある。だがそれ以上に苑人の身体がそれを望んでいることを充分に理解していた。 「僕もそうしたい。お願い、二人で一緒に僕を……僕を愛して」  温かい涙が苑人の頬を伝わり落ちた。 「もし辛いようならすぐに止めるからな」  コスがエントの耳元で囁いた。シンとコスもまた初めての事だった。  シンとコスが向かい合う形で腰をできる限り近づけ合う。二人の形の良いペニスは、今にもはち切れそうなほどに硬く屹立している。その中心に苑人はシンに胸を、コスに背中を向けた体位でゆっくりと自分の腰を落としていく。期待と不安が三人を飲み込んでいく。シンは額に汗をかき、ゴクリと生唾を飲み込んだ。コスは見事なまでに鍛え抜かれた厚い胸板からいく筋もの汗を流しながら、肩を大きく上下させた。  苑人の優しい手のひらが二人の昂りに触れた。二人は同時に目を閉じ、苑人を全身で感じ取ろうとするかのように意識を集中させていた。  だが慣れないせいで、なかなか思うようには行かなかった。  シンのペニスが苑人の中に入り過ぎ、コスのペニスを押し返す。身体の重心をコスに傾けると今度はコスのペニスだけが苑人の中に沈み込み、シンのペニスは横に逸れてしまう。 「やっぱり無理はしない方がいいよエント」  シンが耐え切れずに声をかけた。 「大丈夫。僕は大丈夫だよ。欲しいんだ二人が。だから大丈夫だよ」  コスがいきなり苑人の両肩を掴み、身体を起こした。 「後悔しないか、エント? 我慢できるか?」  苑人は肩越しにコスを振り返った。 「コスは僕の願いを叶えてくれる? なら我慢できるよ。僕はどうしても二人が欲しいんだ」  コスは身体を起こし膝をつくと、シンの両足を広げさせ膝裏をベッドに付けた。苑人を抱えるようにシンの屹立の中心に苑人のアナルを当て、深く沈めた。 「あああっ!」  苑人は切なげな喘ぎを漏らす。だがこの先はその程度では済まされない。だがコスは気持ちを鼓舞するかのように苑人の背中を押し、シンの胸に身体の重心を移させた。 「いくぞエント!」  シンと苑人が繋がり合う上にコスは自分の痛いほどに硬く張ったペニスを当てがった。ゆっくりと、だが確実に狭い入口を求め、コスのペニスが埋め込まれていく。 「ぐぅっ……あああっ!」 「辛いかエント?」  シンが堪りかねて声を掛ける。だが苑人はイヤイヤをするように首を横に何度も振った。 「もっと深く挿れるぞ、エント」  コスは腰をぐっと突き出し、エントの中へ深く割って入る。 「あああっ、シン、コス、僕たち一つになったの……ぐあっ!」  抉るような痛みに耐えながら、苑人は涙を零しながら微笑みを浮かべた。シンがその顔を両手で掴み、キスをした。コスは更に深くエントの中を抉るように突いていく。 「エント、最高だよ。俺たちは一つになれたんだ」 「コス、コス! もっと来て、もっと深く突いて!」  痛みは次第に淫らな快感へと変わり、苑人は身体の奥深くで二人を感じていた。コスの唇がうなじに触れると、苑人は身体を痙攣させた。 「ここが気持ちいいのか?」 「んあぁっ……! コス……!」  苑人は相槌とも吐息ともわからないような声を漏らした。その色気に煽られたシンは下から苑人を突き上げる。 「ぐああああっ! シン!」  二人のペニスは苑人の身体の中で絡まり、擦れ合いながら苑人を貫いていく。 「あああっ、あああっ気持ち……いい!」  苑人がひときわ大きな喘ぎを漏らし、シンの胸板の上に白濁を飛び散らせた。 「エント、トコロテンか?」  シンが驚いた声を上げた。コスがそれを確かめるように手を伸ばし、シンの腹の辺りを撫で、苑人の精液を掬いとった。コスは白い滴りを口元に運び、それを舌で舐め取った。 「エントの命の雫だ。美味いよ」  コスに煽られたかのように、シンはさらに腰を大きく強く突き上げた。 「あああっ、だめ! また……!」  コスもまた腰を深く浅く前後に激しく打ち付けた。 「だめ、我慢できない! あああっ!」  苑人の白濁はシンの顔にまで飛んだ。シンもまた美味そうに舌で舐め取り、飲み下した。 「あああっ、あああっ! もっと、もっと!」  苑人は今までの人生とはまるで違う世界に飛び込んでしまっている気がした。喜びは三人で分かち合うことで何倍にも膨れ上がり、その快感は全身を突き抜けた。  やがてコスの吐息の激しさが最後の昂まりを知らせると、苑人は下腹部に力を込め、歯を食いしばった。ひときわ大きく喘ぐ苑人の口元に、シンの柔らかな唇が重なる。激しく打ちつけるコスの脈動に合わせ、苑人の息が絶え絶えになっていく。苑人は身体を起こし、肩越しにコスに口づけた。大きく開けた口の端からキラキラと光を跳ね返しながら唾液を垂らした。コスはそれを荒い息遣いのまま舐め取った。 「うっ、エント、イクぞ!」  ひときわ強く腰を打ち付けると、コスの白濁が苑人の奥深くで爆ぜた。 「エント、俺もエントの中でイッてもいいか?」  シンが苑人の耳元に呪文をかける。苑人は涙を溜めた瞳をシンに向けると、大きく頷いた。  シンは苑人の身体が離れないように苑人の腰を強く掴み、さらに突き上げていく。 「ぐぅっ、シン……あああっ!」  深く浅く抽挿される度に、苑人は身体を左右に捻り、小さく開いた手は虚空を掻いた。 「ああっ、エント!」  苑人の中で二度目の白濁が深く爆ぜた。

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