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第3話

 真嗣がドアを開けると、笑顔の隆也がいた。真嗣、久し振りだな、と言う隆也は、長かった髪は耳が見えるくらい短くカットされ、スーツにネクタイ姿だった。以前の中性的な感じはなくなり少し男らしくなっていた。 「あぁ、久し振り。髪、切ったんだな」 「まぁ、色々あってな。おかしいか?」 「いや…なんか、男っぽくなったというか」 「お前なぁ、俺は男なんだぞ」  真嗣は、なんとか笑顔を保ちながら、隆也を部屋の奥に招いた。隆也はドアが閉まるのを確認すると 「なぁ、真嗣…」  真嗣は、背中で聞こえる隆也の声がまるで死刑宣告でもあるかのように身構えた。 「久々だってのに、ハグもなしかよ」 「…えっ?」 「人目があるからさ、こうやって部屋に来たんだぞ」 「…隆也、お前…そんな…そんなこと」  真嗣は急に力が抜けて、ベッドの縁に尻をついてしまった。隆也は近づいて真嗣の頬に手をやった。 「会いたかったよ、真嗣」  その声は、甘く、優しかった。そしてベッドに腰かけている真嗣に前屈みになって唇にそっとキスをした。 「隆也…そんな」 「真嗣…俺たちは、今までそれぞれ頑張ってきたんだ。もう、そろそろいいだろ?…こんなことしても」  隆也はもう一度、真嗣にキスをしようとした。真嗣は隆也の胸の下辺りに顔を押し付けて腰を掴んだ。 「隆也…ごめん。俺、本当にごめん」  隆也は怪訝な顔で、抱きつく真嗣を引き剥がし、肩を掴んだ。 「お前、ごめんってどういうことだよ」  隆也の顔は険しく真剣だった。 「ごめん…俺、お前の気持ち…疑ってた」 「もう…話してくれよ。ちゃんと」  隆也は真嗣の横に座った。 「…だってさ…お前、俺が電話しても、普通に仕事の話しするしさ、この二年近くお前の様子なんてまるでわからなかったのに、それで、あの電話だろ?もう、俺たちは仕事上での関係なんだって思ったんだよ」  真嗣は拗ねて言い訳する子供のようだった。隆也はふぅっと息を吐いて、真嗣の肩を抱いた。 「…そうだよな、ごめん、悪かった。俺はこの二年ホームページのお前の笑顔を毎日見てたから、お前はいつもすぐ傍にいるように思ってた。だけどお前は違ったんだよな。俺が今どうしてるかなんて、手紙が着くまでわからなかったんだもんな。ごめんな、真嗣」  隆也は膝の上で握り拳をつくっている真嗣の手を強く握った。 「言い訳じゃないけど…明日会社に来ればわかると思うけど、あの時…お前から電話もらった時、周りにはさ、その…耳年増の社員がけっこういてさ…そんな中で、真嗣会いたかったよ、なんてちょっと言えなかったんだよ。心の中では言ってたんだけどな」  真嗣はまた泣いていた。 「お前、本当に泣き虫だな」 「だって…覚悟してたんだから。お前からこんなこと言ってもらえるなんて思ってもみなかったし」 「俺の気持ちそんな薄っぺらじゃないことわからなかったか?」 「わかってたから、二年近く信じてたんだよ。でもあの時の電話で…急に不安になったんだよ。俺だけが勝手に想ってたんじゃないかって」 「あぁ…ごめんごめん。もう泣くなって」  隆也は子供をあやすように肩を抱いていた手で背中を摩った。 「それに、お前、なんかカッコよくなってるし」 「カッコいい方がいいだろ?」 「いいけど…なんかちょっとやだ」 「はいはい。可愛かった隆也君も大人になったんだよ」  隆也はそう言うと、今度は阻まれないようにもう一度真嗣にキスをしようと顔を近づけた。 「真嗣…本当に会いたかった」 「隆也…あぁ…隆也、俺もずっとずっと会いたかった」  二人は二年近くの会えなかった時間を埋めるように、甘く、優しく、そしてしだいに、深く、強く互いの唇を吸い、舌を絡ませあった。 「真嗣、好きだよ」  隆也の甘い言葉に、真嗣はまた涙が溢れてきた。

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