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第5話
タクシーを降りると、さっきよりも空気が冷たく感じた。
隆也の家は、以前のスタイリッシュさはなく、よくある五階建てマンションの三階の1LDKだった。
「前にいたとこより郊外だけどさ、その分部屋が広くなったし、今の会社にも乗りかえ無しで行けるんだ」
隆也はそう言いながら、玄関のドアの鍵を開けた。
「ほら。コイツも元気だぞ」
以前、真嗣がイカ好きの隆也に作ったイカのマスコットが、キーケースにぶら下がっていた。
「ほんとだ。そういえば友達作るとか言ってたな」
家の中に入ると、隆也は、寒っ、と言ってすぐにエアコンとこたつのスイッチを入れた。
「こたつだ」
「お前の家に行った時、やっぱりいいなと思ってさ、ここに引っ越してから、買ったんだよ」
「そうだろ?こたつは最強だ」
そう言って真嗣はこたつの中で脚を伸ばした。
隆也はキッチンに行くと、もう少し飲むだろ?と声をかけて、缶ビールと適当なつまみを持ってきた。すると真嗣は鞄から箱に入った一合瓶を出した。
「これ、言ってた『桜日和』持ってきた。会社の人達より、お前に一番に飲んでもらいたくてさ」
「嬉しいこと言うね、お前は」
隆也は箱を手に取って、瓶を出した。
「へぇっ…可愛いじゃん。女子受け間違いないな。絶対にSNSに載せたがるよな。お前ってこんな女子力高かったっけ」
「いや、まぁ瓶のデザインは考えたけど、ラベルは昔のコネを使って、描いてもらった」
隆也は笑いながら、なるほど、と言って、またキッチンに行くと小さめのコップを二つ持ってきた。瓶を開けると、ほのかな桜の香りがした。
「少し発泡してんだな。香りもいいし。ノベルティとしてこれを選んだ俺のセンスもかなりのもんだろ」
「ありがとうございます。今後ともご贔屓に」
二人でまた乾杯をした。
「美味しいよ…お前、本当に頑張ったんだな」
隆也はしみじみと言った。
「隆也こそ、自分のブランド立ち上げて展示会までするようになってさ、お前の方がすごいよ」
「『T-wind』ってさ、なんでその名前にしたかわかるか?」
隆也は微笑みながら言った。
「それは、隆也のTと、あの風のドレスからだろ?」
「まぁ、それもあるけどさ。お前が大切にしてる高倉酒造のTでもあるんだよ」
「隆也…」
「手紙にも書いてあっただろう?お前と俺のブランドだって」
「そうだけど…もうまた、泣きそうになる」
「いいよ…泣いても」
隆也は真嗣の頭を撫でた後、自分の方に引き寄せると唇を重ねた。そして唇を離すとおでこをひっつけて言った。
「なぁ、今晩泊まっていけよ」
「…うん」
また、二人はさっきより深いキスをした。
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