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第8話

 真嗣が目覚めると、まだ隆也は眠っていた。隆也の寝顔を見ると、何故、昨日ホテルで見た隆也を男っぽいと思ったのか、今、目の前で眠っている隆也の顔は二年前のちょっと生意気なビスクドールとなんら変わりがないのに。微笑みながらじっと見ていると、隆也も目が覚めた。 「おはよう。隆也」 「あぁ…」  隆也は変わらず朝が弱かった。 「こんな幸せな朝を迎えることができるなんて…二十四時間前の俺に言ってやりたいよ。心配すんなって」 「お前、朝からテンション高いな」  真嗣はベッドから足を下ろしてトランクスを履こうとした時、隆也が背中に乗り掛かってきた。 「なに?朝の抱擁?」  隆也は真嗣の肩越しに覗き込むように股間を見ると、後から手を回して、真嗣の下を向いているモノの先をひょいとつまみ上げた。 「やっぱり、大きいよな…お前の…」 「まだ、言ってる」 「俺さ、あんまり口大きくないんだよな」  真嗣が、えっ、と言って顔を横に向けると、ニヤニヤ顔の隆也と目が合った。真嗣はみるみるうちに顔が真っ赤になった。そんな真嗣を見て、隆也は池の中で餌待ちをしている鯉の様な口をした。 「もう…」  真嗣が耳たぶまで真っ赤になっているのを見ると、隆也は満足そうな顔をして、下着とスウェットを着るとさっさと寝室から出て行った。  真嗣は隆也のあのおどけて口を開けた顔が目に焼き付いてしまった。そして想像した。心臓がドキドキするのと同じように真嗣の股間はドクドクと脈打ち始め、抑え込もうとすると余計に勃ってしまった。深呼吸したり、仕事のことを考えたり、気を紛らわしながら隆也がここに来ませんようにと願った。しばらくすると隆也の声が聞こえた。 「真嗣、朝飯、目玉焼きとパンでいい?」 「あっ…あぁ。ありがとう」 「落ち着いたら、こっち来いよ」  隆也の声には笑いが含まれていた。隆也はこの状況がわかっていたようだった。そうなるように仕向けたのは、隆也の悪戯でもあり、愛情表現でもあった。  何とか落ち着かせた真嗣は、隆也と顔を合わせることなく、すぐに洗面所に行って顔を洗った。リビングに行くと布団のないこたつの上に目玉焼きとトーストとコーヒーが二人分置いてあった。 「あっ…ありがとう。朝ごはん用意してもらって」  隆也はニヤニヤしながら 「次に来た時に、するからな」  そう言って隆也は口を開けると、真嗣は飲みかけたコーヒーを噴き出しそうになった。 「もう…降参。お前の顔見れなくなるよ」 「なんだよ、急にしおらしくなって」 「お前が、やり過ぎなんだよ。あんな顔して」 「昨夜のお返しだ。想像させてやったんだよ」 「はい。ありがとうございます。お陰でムスコは元気になりました」  二人は目を合わせて笑った。そして真嗣は昨夜の隆也の言葉を思い出した。 「そうだ、昨夜言ってた、協力の話し。あれ何?」 「お前が重婚の犯罪者にならないためだ」  隆也は真嗣の顔を見て、ニヤッとした。

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