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第10話

 真嗣が帰った二日後に掛け布団が隆也の家に届いた。隆也が想像していた物より、かなり高級な羽毛布団だった。隆也は真嗣に電話をかけた。 「あぁ、真嗣?さっき、布団届いた。ありがとう。なんかめちゃくちゃいいやつじゃないか」 (よかった。だって隆也もベッド買ってくれてたんだし…こっちこそ、ありがとうな) 「そうだ、一昨日お前が帰った後、大変だったんだからな…もう。高倉さんは独身ですか、とか今彼女いるんですか、とか。お前、うちの会社にもう来んなよ」 (隆也君、ヤキモチですか?それ) 「うっせえよ。ちょっと変装のつもりが…まったく、やり過ぎなんだよ、お前は」 (俺さ、ポテンシャル高いんだ) 「はいはい。よかったね、モテ男君。じゃあ、また連絡する」 (あぁっ、待って待って。今度いつ行っていい?)  隆也は真嗣の言葉に自分がにやけ顔になっていくのがわかった。 「もう。お前が好きな時に来ればいい。俺がお前に合わせるから」  隆也は嬉しい気持ちがバレないようにわざと淡々と言った。 (わかった。じゃあ出来るだけ早く行くよ。ありがとな…好きだよ隆也)  真嗣の電話は切れた。  ったくもう、と言いながら隆也は緩んだ頬を手で軽く叩いた。  隆也は届いた羽毛布団を寝室に運び、ダブルベッドの上に広げると、今まで自分が使っていた掛け布団より数倍の嵩があった。隆也は子供のように、その羽毛布団の上にダイブした。ボフッと音がして隆也は優しく包み込まれた。そして少しだけエッチな想像をした。    隆也の会社『マリアティーニ』は展示会の最終準備に余念がなかった。高倉酒造からもノベルティの『桜日和』が届いた。隆也は自分のブランド『T-wind』のドレスを見て感慨深かった。ベルクージャの退社後、ドレスメーカーではなくドレスレンタル会社を選択して正解だったと、改めて思った。デザイナーとしてはまだまだ無名の隆也は、既存のメーカーでは自分のカラーを押し出してブランドを立ち上げるまでにはかなりの時間を要し、またいいとこ取りをされて、いいように使われるだけだと思った。かつてのあの金髪のピアス男のように。レンタルであれば、まず数点を作り、直接ユーザーの要望を聞くことができる。このマリアティーニはウェディングプランも提案している会社であるため、尚更、声を聞く事ができるのだった。  そして、三日間の展示会は盛況に終わった。来客数は予想を遥かに上回った。初日に来た客が、最終日にもう一度、結婚を控えている知人を連れてくるようなこともあった。急遽『桜日和』の追加もした。  隆也はこれからだ、と気を引き締めた。二部式のチュールドレスは業界に瞬く間に広がった。需要があると見込まれるとすぐに大手は同じ様なデザインを作り始める。隆也はそれを上回る物を作り続けなければならない。今からが本当の勝負だった。  展示会が終わった10日後の休日、真嗣が隆也の家に来た。隆也が玄関扉を開けると、満面の笑顔の真嗣がいた。 「おう、久しぶり。入れよ」  真嗣は、そう言って部屋の奥に行こうとした隆也の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。そして力強く抱きしめた。 「会いたかったよ。隆也」 「真嗣…」 「あの時も、こうしたかったんだよね…ごめんな」 「お前、まだ気にしてんのか?今こうしてるんだから、それで俺は十分だよ」 「隆也…」 「あぁっ…キスは後だ」  顔を近づけた真嗣に、隆也は指先で真嗣の口を押さえた。真嗣は頬を膨らませた。    リビングにあったこたつは布団を片付けられ、テーブルだけになっていた。 「隆也、改めて、展示会の成功おめでとう。それに『桜日和』を追加までしてもらってありがとう」 「いや、こちらこそ、急だったのにきちんと対応してもらって助かったよ」 「今日は祝杯と思って、高倉酒造一推しの酒を持って来たよ」  そう言って、見るからにおめでたい席で飲まれそうな金箔のようなラベルが貼ってある一升瓶を出した。 「うわぁ、すごいじゃん。ありがとうな」  二人は大吟醸で乾杯をした。

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