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第12話

 月に二回ないし最低でも一回は真嗣は隆也の家に行って、心と身体を交わしていた。  隆也は成功した展示会の次の戦略を考え、真嗣も『桜日和』に続く、新たな商品の企画に着手しようとしていた。  そして高倉酒造の元に、酒造の元旦である七月を前にして、予てから入所を申し込んでいた養護老人ホームから連絡があった。祖母のヨシエは、今では家族の誰が誰なのかもわからず、生活全般で介護が必要になっていた。嗣夫は高倉酒造から一番近い施設にケアマネージャーを通して入所申請をしていた。そして、空きが出たから、と入所の意向確認と入所案内の電話がかかってきたのだった。ケアマネジャーからは入所をするのであれば一週間以内に入所をしなければ次の順番を待っている人に話しがいくからと言われ、元旦の儀式の準備をしながら、慌ただしい中ヨシエは入所をした。  真嗣は秋の紅葉シーンに合う酒を考えていた。秋の香りで思い浮かぶのが、高倉酒造の庭先の金木犀だった。そして、伯父の誠治と意見を交わした。  そんな中、高倉酒造の長女の恵子が夫の誠治と一緒に、嗣夫に話しがある、と言ってきた。数子も同席で話しを聞くと、恵子と誠治の長男を高倉酒造で働かせてほしいとのことだった。長男の伸治は結婚もして子供もいた。不動産会社の営業社員であったが、毎月のノルマを達成できず、上司からの風当たりも強く、心身ともに病み始めていると恵子は言った。嗣夫も小さい時から甥の伸治をよく可愛いがっていた。高倉酒造の業績も好調であったことから、これから人手も必要になると見込み、伸治を受け入れることになった。  真嗣も同年代の伸治と一緒に働けることは、心強かった。ただ、数子は反対ではないが、真嗣に厳しい意見も言った。 「人はお金の匂いがすると集まってくるのよ。で、その反対も然り、覚えておきなさいね」  真嗣は母親の意外な一面を見た気がした。  秋に向けての新商品は金木犀の香りと決まった。   真嗣は『桜日和』の二番煎じではなく、よりクオリティの高い香酒作りを目指した。新作といえど『桜日和』での経験があるため、ネーミング以外はスムーズにことは運んでいた。  真嗣は隆也と会っている時に、新商品の名前で悩んでいる、と相談すると、隆也は『金木犀の空』は、と言った。 「吉嗣君が亡くなったの、秋だっただろ?吉嗣君に届けばいいなと思うし、空から吉嗣君に見守ってもらえたらなと、ふと思ったんだよ」  真嗣は胸が詰まった。 「ありがとう…隆也。そうだよな。吉嗣に届けたい。見守ってもらいたい。『金木犀の空』にするよ」  隆也は微笑みながら頷き、そして真嗣の涙を拭ってやった。

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