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第13話

 高倉酒造の金木犀が香り始めたころ、『金木犀の空』が完成した。紅葉はまだ先であったが、真嗣と伸治は『桜日和』を入れてくれたカフェやレストラン、また新たに紅葉スポット周辺の店へ営業に行った。伸治は営業をしていたこともあり、物腰も穏やかに商品の説明をした。すぐに一人でも店を回れるようになっていった。『金木犀の空』は初年度ながら好調な滑り出しであった。  二人が一緒に営業先から車で高倉酒造に戻ると救急車が停まっていた。数子と誠治が二人を見つけると 「真嗣、お父さんが倒れたのよ。今から病院に運んでもらうんだけど…だめかもしれない」  酒造タンクの横で倒れていた嗣夫を従業員が見つけてすぐに救急に連絡をした。到着後に救急隊員が処置をして今は救急車の中で搬送病院の調整をしているらしかった。 「母さん。俺が病院に付き添うよ」  ようやく受け入れ先が決まり救急車は病院へ向かった。  その日の夜に嗣夫は処置の甲斐なく、亡くなった。  急性心不全だった。  通夜式の弔問客の中には口さがなく、一度お祓いをしてもらった方がいい、などと言う者もいた。数子は偶然にも吉嗣に次いで夫も秋に亡くしてしまった。 「本当に急だったから、まだどこかにお父さんがいるみたい。ただいまって、帰ってきそうだわ。秋になって吉嗣は淋しくなったのかしらね…でも皆んなが言うようにお祓いしてもらおうかしら」 「母さん、そんなこと真に受けなくても」 「冗談よ…でも、おばあちゃんなら連れて行ってくれてもいいんだけどね。あぁ、そうだ。供花をいただいた『マリアティーニ』さんって、『桜日和』をたくさん納品させていただいたところよね」 「そうだよ…どうかした?」  隆也が代表で弔問に来てくれていた。母親は聞き慣れない社名で聞いたのだろうと思ったが、真嗣は一瞬ドキッとしてしまった。  高倉酒造の代表が亡くなった後、しばらくの間は数子が代表代理ということになった。  季節はあっという間に巡り、木枯らし一号が、どこそこで吹いたとニュースで聞くようになり、冬の訪れはもうすぐだった。  真嗣は高倉酒造の代表はいずれは自分が継ぐことになるのだろうと思ってはいるが、隆也との関係も考えていた。月に一回は必ず会いに行きたいが、代表という立場になっても自由にできるのだろうか。すぐに答えが出るわけでもない。隆也と一緒にゆっくりと考えれば、きっと上手くやっていけると信じていた。

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