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第14話

 隆也も嗣夫が亡くなった後、真嗣との関係をどうするのがいいか考えていた。真嗣が高倉酒造の代表となっても今までと同じように愛を交わしていけるのだろうか。この先もずっと一緒に愛を育むことができるのだろうか。その答えは見つからないが、真嗣の将来、高倉酒造の将来を考えると、どうすればいいのか答えは決まっている。頭では理解できるが、それを実行に移すのは、隆也はすぐにできる自信はない。とはいえいつまでもズルズル先延ばしにできることでもないこともわかっていた。隆也は三年と決めた。三年後に真嗣と別れようと決めた。真嗣は高倉酒造や従業員やその家族を守り続けていく責任がある。自分にはどうあがいても、高倉酒造を継続していく為の跡継ぎ問題を解決できる術はない。  今からその間に少しずつ気持ちの整理をつけようと思った。それまでに、もし真嗣が別れを決断した時は甘んじて全てを受け入れる。真嗣は優しい。真嗣さえその気になれば女性との結婚もすぐにでもできそうだと思った。『マリアティーニ』へ来た時のことを思い出すと、明らかだ。  今更ながら、吉嗣が死んで真嗣が実家に戻った後の二年間、そのまま会わずにいたら、今の苦しみはなかったのだろうかと思う。真嗣の父親の早すぎる死は予期せぬことであったが、それでも、いずれは亡くなることには違いない。何故気付けなかったのだろう。真嗣と再会して愛しあった一年弱のこの時間を否定したくはなかったが、この先真嗣がいない人生は隆也には耐え難いものになりそうだった。  そして、また、新しい年がこようとしていた。  年が明けて、三が日が過ぎた頃、真嗣は隆也の家にいた。会うのはひと月以上振りだった。 「隆也と新年を迎えても、こっちの都合でなかなかおめでとうは言えないな」  隆也は返事はせずに、うっすらと笑うだけだった。 「なぁ、元気ないな、お前。会った時から思ってたんだけど、どこか調子悪いのか?」  真嗣は持っていたコップをこたつの上に置くと、隆也の顔に自分の顔を近づけた。 「あぁ、年末からちょっと風邪気味でな」 「えっ?大丈夫か?熱とかないのか?横になってた方がいいんじゃないか?」  真嗣は心配顔で隆也の額に手を当てた。 「熱はないと思うけど…ごめん、今日はもう帰ってもらってもいいかな」 「わかった…お前一人で大丈夫か?俺でよかったら看病するぞ」 「大丈夫だよ…寝てたらすぐによくなるよ」  真嗣は何度も大丈夫か、と言いながら支度をして隆也の家を出た。  隆也は少しずつ、真嗣との距離を置いていこうと決めていた。  真嗣が帰って一時間が過ぎた頃、インターフォンが鳴った。真嗣だった。 「お前、どうしたんだよ」 「やっぱり、心配になってさ。まだ正月休みで病院はどこもやってないだろ?夜中に具合が悪くなったら大変だし、薬とか他なんか買ってきた」  そう言って、真嗣は玄関でレジ袋に入っている薬やスポーツドリンクや額にはる冷却シートを見せた。  隆也は俯いて、ありがとう、と言った。 「真嗣、やっぱり、泊まっていってくれるか…」 「もちろんだよ。何を遠慮してんだよ、お前は」  真嗣は隆也の頭をくしゃっとして、ベッドで寝るように促した後、卵粥を作ると言った。  隆也はベッドの中で静かに泣いていた。真嗣との別れまで三年と決めたが、逆に三年もこんな思いで真嗣と向き合うのは、別れるのと同じくらい辛いものだった。  隆也は今年の『桜日和』ができた時を別れの時にしようと決めた。

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