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第15話

「真嗣、ちょっといい」  居間で一人、テレビを観ていた真嗣に、数子が声をかけた。 「あぁ。どうしたの母さん」  真嗣は、いつもと様子が違うのを察してすぐにテレビを消した。 「あのね、これはまだ母さんだけの考えでもあるんだけど」  数子はそう前置きした。 「高倉酒造を誠治さんに任せようと思うのよ」  あまりにも突然の話しで、真嗣は言葉が出なかった。 「母さん、おじさんに任せるって、どういうことだよ」 「あんた…真下さんと一緒にいたいんでしょう」  数子は特に表情を変えることなく言った。真嗣は高倉酒造を誠治に任せるという話よりも、数段驚いた。 「…母さん…どうして、それを」 「あんた、何年あんたの母親やってると思ってるの?真下さん、お父さんのお通夜に来てくださったでしょ。その時にね、あんたを心配する真下さんの顔が、ただ仕事の関係で来てくださったのと違って見えてね。それに、通夜式の後で、あんたが真下さんと話しているのを見たら、あぁ、間違いないなと思ったわよ。たまに外泊してるのも、真下さんと会ってるんでしょ」  真嗣は母親の洞察力に何も言えなかった。 「別にあんたが誰を好きになろうと、とやかく言うつもりは全くないんだけどね。ただ現実問題として、あんたはこの高倉酒造の跡取りなわけでしょう。真下さんは男なんだから、二人の将来も大切だけど、高倉酒造の将来、つまりあんたの跡を継ぐ人はどうするのかってことよ。今はいいかもしれないけど、あんたがこの先五十や六十歳になって、跡を継ぐのが誰もいなかった時、困るのはあんただし、百年以上の歴史ある高倉酒造は守っていかないといけないし、その時は母さんはもうこの世にいないしね。あんたの力にはなれない。今背負っている荷物はこのまま背負い続けて次の担い手に渡せるのかって。吉嗣が死んでお父さんもこうなってしまった今、あんたはちゃんと決めるべきよ。あんたがいてくれたお陰で、高倉酒造は右肩上がりなのは、感謝している。すぐに答えを聞いてるわけじゃないのよ。考えてみて。でも、あんたがここを継いでいくって言うなら反対はしないから」  真嗣の答えは決まっていた。 「母さん。ごめん…俺は、隆也と一緒にいたいよ」 「そう。まぁそう言うと思ってたけど。じゃあ早い方がいいわ。明日か明後日にでも誠治さんに話しましょう」 「そうだね…」 「じゃあ、母さん寝るから」 「うん、おやすみ」  青天の霹靂とはまさにこのことだと真嗣は思った。 高倉酒造から離れる自分を想像できても、隆也と別れて、高倉酒造の跡継ぎの為に誰かと結婚なんて人生は想像すらできないし、したくもない。真嗣には隆也のいない人生は考えられなかった。  真嗣は伯父の誠治が、高倉酒造を継いでくれることを願った。

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