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第2話 哲のおねだり

 リビングのローテーブルには空の皿やグラスが端に寄せ、食べ掛けのものはひとつの皿にまとめておいた。  それをお盆に乗せて、手分けしてキッチンに持って行く。  皿はシンクに、残り物はラップを張って冷蔵庫へ。  洗い物は哲がやってくれているため、俊は台拭きでローテーブルを綺麗に吹き上げ、再びキッチンに戻ってきた。  すると、哲が最後の一枚を水切りかごに入れているところだった。  二人でやると片付けもあっと言う間だ。 「晩御飯、残り物でいい?」 「もちろん。それと、俊のも添えてな」 「はいはい。シロップ漬けしたやつでいい?」  俊は冷蔵庫の手前にしまっているシロップ漬けを思い浮かべた。  作ったのは二日前。  すみれを使ったそれは、ヨーグルトに乗せて食べると美味しいのだ。  哲専用のそれを今夜も食卓に出そうかと考えていると、哲から否が返ってくる。 「それもいいけど、新鮮なものを生で食べたい」  哲が後ろから俊の腰を抱き、覗き込むようにして俊の目尻にキスをした。  くすぐったい感覚に俊はくすくすと笑い、哲に向き直るとその頭を撫でた。   「すーぐ食べ尽くすくせに?」 「今日は我慢する」 「本当かな?」 「本当。ね、お願い」  哲はダメ押しとばかりにキスの雨を降らせてきた。  慈愛と欲に満ちた最愛からのキスに応えないわけにはいかない。  俊はその腕の中から抜け出すと、リビングにあるテレビ台の下に収納しているディスクケースを引っ張り出して物色し始めた。   「いいよ。じゃあ、どれにする? 今日は動物系にする?」  二日前はヒューマンドラマを見て涙を流し、それが花となった。  俊は花生みだ。  その特性が顕現したのは十九歳の時で、花食みである哲と付き合い出したのもその頃だ。  花生みとは、花を生み出す者。  その体液が花になる者、手から出てくる者などその形態は様々で、花を生み出すときに苦痛を伴うかどうか、日光を浴びてエネルギーに変換できるかどうかもまちまちだ。  ただ、花を生み出すタイミングはコントロールできないこと、そして、花食みの体液が一番の栄養になることは共通している。  俊は涙が花となる花生みで、それに苦痛は伴わないが花を生み出すと怠くて動けなくなる。  光合成ができる体質で、居室は必ず南向きにしている。  そして花食みとは、花を食う者。  花生みが生み出した花を糧とし、総じてあらゆる能力に長けている。  ただし、花生みが生み出す花を食さなければ身心に不調が出る体質である。  哲はこの花食みで、その高い能力から若くして会社の総務課長を務めている。  花生みと花食みは共生関係にある。  花生みと花食みがパートナーになることを『連理の花枝』といい、俊と哲はこの関係にあたる。  そうなってから、もうすでに十年が経つ。  花生みと花食みは人口の二割にも満たず、その特性からその存在は家族や信頼のおける者以外には花紋であることを秘匿され、国に手厚く保護されている。  二人はそれをカモフラージュするため、食用花を中心としたガーデニングをしている。  それも、いつの間にか趣味になったのは言うまでもない。  先程まで招いていた哲の部下に提供したのは、庭で採れた食用のバラだ。  まさか、対花である俊が他人に自身が生み出した花を与えるわけがない。  そんなことをすれば、俊を溺愛している哲が怒り狂ってしまう。

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