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甘い君の食べ方
✳カニバリズム的な表現あり
✳ケーキバース
最初は、汗だった。次は唾液。味を感じなくなって半年ーー久しぶりの味覚は脳を痺れさせるほどだった。
すぐに夢中になって、恋人になりーー一般的なカップルみたいに、恋人の身体を貪った。
頻度はどのくらいだっただろう。
月1が週1になり、そのうち毎日になっていたような気がする。
そのくらい好きだった。
「もう、これで最後にする」
泣きながら、彼がいうのに勿体ないと思った。目から流れ出る体液を舐めたいと思った。逆に誰にも食べられないその涙が無駄になってしまうとすら思えた。
付き合った頃には笑顔が多かった恋人は今では悲しむようになった。すっかり小さくなって震えている。
何故だろう。
あんなに愛しあっていたのに。
額に、瞼に、唇に、腕に、腹に、太ももに、足にーーキスできるところにはまんべんなくキスをして、産まれてきてくれてありがとう、と言った。
その気持ちは今でも変わっていない。
ーー君が居てくれてよかった。今、とても幸せなんだ。
と折に触れて伝えるようにしていたし、愛を伝えるのは恋人と永くいる秘訣だと本で読んだ。
「僕のことが好き?」
治療用の眼帯が片目を覆っている。美容室に行けないからか伸びた髪がさらさらと揺れる。
出会った頃からすると彼は変わった。出来ないことが増えた。ーー指先を使うことも、自分一人で歩くことも。
それでも自分の気持ちは変わらない。
「大好きだ」
好きだと言っても彼は笑ってくれない。ほろり、とその頬を涙がこぼれ落ちていく。今すぐその頬にキスをしたい。
いつものように触れる許可が欲しい。抱き締めて何遍でも好きだと言える。
そのぐらい愛しているのにーーどうして辛そうな顔をするのだろう。
「酷い」
なんて。
「そんなんだから、別れられない」
なんて。
苦しそうな顔をして。
「ーー大好きだよ」
と言って泣く。
もう、簡単に抱えられるようになった恋人は、かつて安心するといってくれた腕のなかでただ涙を流し続けた。
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