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酔いがさめたら

 ずるい、と思った。  結婚する、といった同期が家に飲みに来た。式の準備が本格的になるからその前に独身最後の羽目を外すとかなんとか言って人の家のビールとか、持ってきてたカップ酒を飲んで酔っぱらってキスをしてくる。  昔、とは言っても2、3年前は付き合っていたのだ。そのときも確か飲み会の帰りだった。ひどいフラれかたをしたという話を気のすむまで聞いて、同期の家に上がり込んだ。  何せまともに歩けないほど酔っていたのだ。送って帰った手前、自宅で事故なんて起こされたら困る。転倒に繋がりそうなものをよけて路を作り、布団に酔っぱらいを転がして帰ろうか、としたとき。  もう、男でもいいかも。  なんて力のない声がして、酒臭い唇が重なった。身体は汗ばんで熱いし、泣いたせいでどこか塩辛いしべたべたする気がした。キスに関しては男もそれほど変わらないわ、と言って酔っぱらいは布団に沈んだ。  張り倒したい衝動に駆られたが万が一酔っぱらいに怪我をさせて救急車、なんて自体は避けたかった。    それから新しい恋人ができるまで、と期限を設けて付き合う真似事をした。キスをしたのはあれきりで、お互いなんとなくいつでも終わる準備をしていたように思う。それでも思い付きでデートスポットをまわったり、夜景の見えるレストランで食事もした。  恋人と行けばそれなりにムードを気にするが、男二人気ままに出掛けるのはそれなりに楽しかった。  白状しよう。  それなり、どころか社会人になって一番充実していたとさえ言える。  女性の好みの店を選ぶ必要もなく、なんとなくデートのお誘いをして、割り勘で食べた。  映える景色の前でツーショットを撮ったり、ペアのキーホルダーを買ったりした。  ちなみに水族館のイルカのキーホルダーで、それは今も家の鍵に着けている。  そしてあっさりと同期に彼女ができ、自然消滅になった。  こちらもあっさりと、あの日々がおかしかっただけだと割りきれた。 「結婚するんだろ?」  やんわりと押し返せば、けっこん、と虚ろな言葉が帰ってくる。 「そう、おれ、けっこん、する」  だってさぁ、と舌足らずに 「もぉ、あとがないってさぁ。あせってて、おれ、決めらんなくて。したら、けっこんしなきゃ、別れるってぇ」  しまった、と舌打ちしたくなった。  酔っぱらいがリビングの床で胎児のように丸くなりべそべそ泣き出す。 「もう逃げ道にはならないからな」  台所に水を取りに行きペットボトルごと渡せばでっかい胎児はありがとぉ、とつたなく礼を言う。  泣きたいのはこっちもだ。    一瞬、嬉しかったのだ。また、あの余暇のような曖昧で楽しいだけの日々が帰ってくる気がした。適当にうまいものを食べて、解散するだけ。たまに観光地にいって駄弁るのが本当に楽しくて。 「今日は見逃すから、さっさと寝て旦那さんに戻れ」  タオルケットをかけてやり、小さい子にでも、するようにリズムよく叩いて寝かしつける。  こりゃ、奥さん大変だわ。  顔も見たことがない相手に同情しながら飲み残されたビールを煽る。酔っぱらいがずっと手を添えていたからが思うより温いそれをなんとか飲んで、部屋に散らかる空き缶を拾う作業に取りかかった。  

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