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春はまだ遠い

 10年ぶりに故郷に帰った。  高卒で働きに出てからなにかと理由をつけて帰らずにいたのだが、同窓会の連絡がありそれなら、と帰省したのだった。  新しく出来た店や、なくなった建物をみて歩き気がつけば駅に向かっていた。寂れた無人駅には人気はない。まっすぐに伸びる線路を見つめていると、学生時代のことを思い出した。  彼女が出来た。  たったそれだけで、小中高と続いていた関係はなくなった。遊びに誘っても断られて、苦い思いをした。駅にひとりで電車を待っていたことを思い出す。  彼は電車通学ではなかったがいつも一緒に駄弁って待っていた。まるで恋人同士みたいに名残惜しく、じゃあねと別れの言葉を交わしていた。  冬の日の事だった。  裸の桜の木を見ながら、あれが咲く頃には卒業かーなんて言っていたらいつにもなく真剣な顔で、話がある。ときり出された。  進学先が別で高校を卒業したら今みたいに会うことはない。  どきり、とした。  まさか。と心臓が高鳴った。  今考えればあり得ないが期待していた。恋人でなくてもいいから彼の特別になりたかった。  喉が乾いて無意識に唾を飲んだ気がする。  そうして待った挙げ句に彼女が出来た、だった。  へー、そうおめでとう。  と返すのが精一杯だった。  照れたような顔で、ありがとうと笑う顔が好きだった。  そして少しずつ疎遠になって、それきりだ。 「あー、まだ咲いてないかぁ」  3月になり暖かい日も増えてきたが、裸の桜にはつぼみがついているだけで寒ざむしい。  ふと駅舎を振り返ったが誰もいない。遮るものない風が吹き抜けて身震いした。  春先のコーディネートをしてきたのが間違いだったかもしれない。日は照っているのに風は身を切るように冷たい。 「早く春にならねぇかな」  せめてもの抵抗にシャツの襟を立ててみたりして、同窓会の会場に向けて歩き出した。

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