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第一章 ウィルバートの帰還④

 ベレフォードの話を適当に聞き流していると、外から人のざわめきか聴こえた気がしてマティアスは慌てて窓辺に駆け寄った。 「マティアス殿下⁉」  この部屋は城の西塔の三階にある。  マティアスは窓から身を乗り出し、塔と塔の合間から微かに見える城の正門を見た。ちょうど正門から兵士達が入ってくる所だった。  マティアスはその中に黒鹿毛(くろかげ)の馬に跨ったウィルバートの姿を見つけた。豆粒にも満たない小さな人影だがそれがウィルバートであると確信し、大きく手を振った。すると馬上のその人物はちょうどこちらの部屋の方を向き、マティアスに気付いたようで帽子をとり丁寧にお辞儀をした。 「ウィルーーー!」  マティアスは気づいて貰えた嬉しさにその名を呼び、手をブンブンと振った。 「で、殿下っ! お止めくださいっ、危のうございます!」  三階の窓辺から身を乗り出す王子に焦り、ベレフォードはマティアスの腰を抱き部屋に引き戻した。 「何を考えておられるのですか! ここは三階ですぞ! それに大声で窓から叫ぶなど王子がする事ではございません!」  マティアスは腰に巻き付いたベレフォードの皺だらけの手を引き剥がすと部屋の出口に走り向かいながら言った。 「ちょっと見てくる!」 「殿下っ、いけません! 陛下とご一緒に謁見の場で……!」  マティアスはベレフォードの言葉を聞くことなく部屋を飛び出した。  石造りの長い廊下を軽やかな足取りで走り抜け、階段を舞う様に一つ飛ばしに駆け下りる。 「きゃっ! マティアス殿下⁉」  途中でメイド二人にぶつかりそうになりメイドの一人が驚き声をあげた。 「ああっ、すまないっ」  マティアスは笑いながらは詫び、そのまま廊下を駆ける。 「殿下! 廊下を走らないでください!」  マティアスの背後から叱ってきたのはメイド長のハンナだ。身長はマティアスの胸ほどまでしかないが、中年らしいふくよかな体型と、遠慮なくマティアスを叱る姿勢が彼女を大きく見せている。 「ごめん、急いでるんだ!」  そんなハンナに臆する事なくマティアスは振り向き二人に手を振った。 「まったく!」  ハンナの呆れた声を背中に、マティアスはそのままその場を立ち去った。

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