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第一章 ウィルバートの帰還⑤

 使用人用の小さな扉から外に出ると、爽やかな秋晴れの空が広がっていた。城内の庭は紅葉が始まる前で、木々が葉を青々と生い茂らせている。  マティアスは高まる興奮を抑えられず走る速度を上げた。土を蹴り、長い髪を揺らし、風で絹のシャツを膨らませる。  城の広い敷地を駆け抜け、兵舎近くの広場に出ると帰還した三十名程の兵士達と、それを出迎えた沢山の兵士達で広場はごった返していた。  マティアスはその兵士達の間を通り抜けながら、ウィルバートを探した。 「マティアス殿下だ……」 「なんと! ご立派になられて」 「セラフィーナ様の生き写しではないか!」  四年ぶりにマティアスの姿を見た帰還兵達がざわめき口々に声をあげる。 「皆! ご苦労であったな」  マティアスは兵士に笑顔で声をかけながら広場を歩いた。兵士達はマティアスの労いに喜びワァーッと歓声を上げた。 「マティアス様!」  不意に大きな声で呼び止められ、声がした方に目を向けた。 「ウィル!」  そこには探していたウィルバートの姿があった。  マティアスは迷うことなくウィルバートに駆け寄り、体当たりするかのようにそのままの勢いで抱き着いた。 「ウィル! 会いたかったぞ!」 「マティアス様っ!」  ウィルバートは両脚を踏みしめマティアスを抱き留めた。  マティアスはウィルバートの首に両腕を回しギュッと抱き締める。四年ぶりの再開と同時に、やっとウィルバートが自分のものになることが嬉しくて堪らない。 「マティアス様っ、駄目ですっ」  そんなマティアスの喜びとは真逆に、ウィルバートはマティアスの腕を自身の首から引き剥がしながら言った。 「服が汚れますよ。それにこんな場所に一人で来てはいけません」  マティアスは叱られながらもウィルバートの姿がをまじまじと見つめた。  短く刈られた艶のある黒い髪。切れ長の黒い目と通った鼻梁を備えた整った風貌。四年前には残っていた少年らしさは消え、すっかり大人の男になっていた。身長は少し低くなった気がするが、それはたぶんマティアスの背が伸びたせいだろう。それでもまだ頭一つ分ウィルバートの方が高い。そして圧倒的な違いは筋肉量が増えていることだ。マティアスが勢いをつけて抱き着いてもびくともしないほどに。 「ふふっ、相変わらず口うるさいな」  その口煩(くちうるさ)さすら嬉しくてマティアスは微笑んだ。 「マティアス様……」  ウィルバートは少し動揺したような表情を浮かべた。  ふと周りを見ると兵士達が二人を取り囲むように見ている。二人だけでゆっくり話がしたいとマティアスは思い、ウィルバートに言った。 「グラードにも会いたい! 厩舎(きゅうしゃ)だな?」  マティアスはそうウィルバートに言うと返事を待たずにスタスタと厩舎の方へ向かった。 「ま、マティアス様、待って下さいっ」  予想通りウィルバートが慌てて付いてきた。 「我々は昨日も一昨日も野宿で汚れてます。しっかり身を整えてから陛下にご挨拶をと思っているので……」  早足で歩くマティアスに付き従いながらウィルバートは必死にマティアスをこの場から帰そうとしてくる。しかしマティアスはそんな忠告を聞く気はさらさら無かった。

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