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第一章 ウィルバートの帰還⑥
「グラード!」
厩舎に入ると脚をバタつかせて喜んでいる黒鹿毛の馬にマティアスは駆け寄った。
「グラード、久しぶりだな! 私の事、憶えてるか?」
グラードはウィルバートの愛馬だ。
マティアスが鼻を撫でてやると嬉しそうに頭を上下させた。
「おお、レオンの隣に入れてもらったのか。良かったなレオン」
そしてその隣にはマティアスの愛馬レオンがいた。レオンは栗毛の馬だ。
この二頭はマティアスが八歳の頃、乗馬の練習にマティアスとウィルバートにそれぞれ与えられた。それ以来いつも二頭と一緒に鍛錬してきたので、この二頭はとても仲が良かった。
「レオンも四年間、淋しかったんだよな。良かったな。グラードが帰ってきて」
レオンとグラードは互いに顔を寄せ鼻を擦り付ける合っている。そんな二頭を撫でつつ、マティアスはウィルバートに言った。
「なのに、ウィルは私に四年ぶりに会えて嬉しくないのかね」
そう言われたウィルバートは言葉を詰まらせている。
この四年間、マティアスとウィルバートは沢山の手紙をやり取りしていた。
ウィルバートからの手紙はマティアスの成長や健康を気遣う内容が殆どで、ボルデ村の季節の移り変わりや兵士間でのちょっとした笑い話もなどもあった。だからマティアスの想像では、ウィルバートは再会の瞬間喜びマティアスの成長を褒め讃えてくれると思っていた。
なのに、何か壁を感じる。
マティアスの問にウィルバートは静かに口を開いた。
「……成人の儀を控えた大事な時期ですので、武骨な兵士達の前に気軽に出てくるのはどうかと思いまして」
その答えにマティアスは苦笑いを浮かべ、馬たちから手を離し、厩舎入口に立つウィルバートの前に歩み出た。
「じゃあ今は二人だけなのだから、もっと喜んでくれても良いだろう?」
マティアスは少し小首を傾げて言った。
ウィルバートは照れなのか耳と首を赤く染めながらマティアスを見つめて言った。
「マティアス様がご立派にご成長された姿を見る事が出来て嬉しいです」
(四角四面な言い方だが、まあ良しとしよう)
マティアスはそう思い、ウィルバートに向かって笑顔で言った。
「ん、おかえり。ウィルバート」
マティアスがそう言うとウィルバートも微笑みを返してくれた。
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