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第一章 赤りんご③

 マティアスはレオンから降り、すっかり怯えきっている赤毛の姉弟に優しく声を掛けた。  ウィルバートも同じく馬から下り、マティアスの後に付く。 「二人とも怪我はしてないか?」 「は、はい」  姉の方が戸惑いながらも答える。弟は依然として姉の背中に隠れていた。マティアスはしゃがみ姉に隠れる少年に目線を合わせた。 「道に飛び出したのは君か?」  極力優しく声をかけたつもりだが、少年は心底怯え、嗚咽混じりでたどたどしく声を出した。 「ぼ、僕、ろうやに……は、入るのっ?」  マティアスは驚いた。クレモラ公爵はこの姉弟に対しそうやって酷く脅し罵ったのだろう。 「さっきのおじさんにそう言われたのか?」  そう問うと少年はこくりと頷いた。 「大丈夫。そんなことさせないよ。こう見えてあのおじさんより私の方が偉いのだから」  マティアスの言葉に少年はほっとしたようで表情から緊張がぬけた。すると姉が背中に縋り付く弟に視線を向けた。 「ルーカス、ほら王子様だよ。マティアス王子殿下……ですよね?」  少女がマティアスに確認する。 「そうだよ。よく知ってるね」  マティアスは笑顔で答えた。  そしてルーカスと呼ばれた少年にマティアスは語りかけた。 「ルーカス、あまり馬車が通らない道でも飛び出したら危ないから気を付けるんだぞ。それは牢屋に入れられないためじゃない。自分の身を守るためだ。君が大怪我したり、最悪死んでしまったらお姉さんや家族がとても悲しむからね。それに、私も悲しいよ」  マティアスにそう諭され、ルーカスはこくりと大きく頷いた。 「よし、良い子だ」  マティアスはルーカスの頭をワシワシと撫でた。姉と同じ大きな青い目をキラキラさせて見つめてくる。 「ま、マティアス様、あの、これ家の畑で採れたりんごです。一つどうぞ」  そう言って少女が籠からりんごを差し出してきた。 「おお、ありがとう。いただこう」  少女からりんごを受け取り口をつけようとした時、「マティアス様」とウィルバートに呼び止められた。ウィルバートはマティアスからさり気なくりんごを奪い取ると、少女に優しく尋ねる。 「このりんご、私が先に味見をしても宜しいですか」  毒見だ。  こんな少女から毒りんごを渡される可能性は低いがウィルバートは万が一を想定している。  優しく微笑むウィルバートに少女は頬を赤らめ頷いた。 (この、女たらしめ)

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