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第一章 幼き日⑦

「すごーい! 高い高い!」  ウィルバートはマティアスを肩車し広い芝生の上を走り回った。 「これはどうだ!」 「ひゃあぁ! あはははっ!」  ウィルバートがさらにその場でぐるぐる回る。遠心力で引っ張られる感覚にマティアスは笑いが止まらなかった。 「あー、駄目だ。俺の目が回る」 「えー、ウィルもっとー!」  マティアスの催促にウィルバートは「ちょい休憩」と言いながら肩車のままゆっくり歩いた。 「なぁ、マティアス。さっきはさ、城にいたら遊んでやるって言っちゃったけど、俺まだ雇って貰えるか分からないし、雇って貰えてもどれくらい自由な時間が出来るかわからないから、あんまり遊んでやれなかったら、ごめんな……」 「えー」  マティアスはウィルバートの肩に乗ったままウィルバートの黒髪を掴み、不満そうに顔を覗き込んだ。 「まずは雇って貰えるように頑張るからさ! それで自由時間が出来たら絶対会いに来るよ」  ウィルバートはマティアスを見上げながら必死にそう言ってくれた。  ふと、マティアスは少し前にベレフォードが言っていた事を思い出した。 「ねぇウィル! だったらさ、僕がウィルをき」 「おいっ、そこのお前! 動くな!」  マティアスが話している途中で誰かが怒鳴ってきた。ウィルバートが驚きマティアスを肩に乗せたまま声がした方に向く。そこには兵士が二人おり、二人とも剣を抜いてこちらに突きつけていた。 「な、なんでしょうか?」  ウィルバートか戸惑いながら兵士に聞く。 「殿下を下ろせ!」 「え? 殿下?」  マティアスはウィルバートの髪をギュッと掴んだ。 「早くしろ!」  ウィルバートはゆっくりしゃがみ、マティアスを肩から降ろした。  次の瞬間、一人の兵士がマティアスを抱きかかえ、もう一人の兵士が乱暴にウィルバートをうつ伏せに押し倒し、腕を背中で固定し馬乗りになった。 「ウィル!」 「マティアス殿下! 無事保護しましたっ!」  マティアスを抱きかかえた兵士が大きな声で叫ぶと続々と兵士が駆け寄ってきた。  身体が大きく甲冑を纏った兵士に抑えられているウィルバートはとても華奢で子供に見えた。そしてその表情は苦しそうに歪んでいる。

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