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第一章 赤紫の炎⑤*
「マティアス様、城へ戻りベレフォード様に診て貰いましょう!」
ウィルバートはマティアスの服を整えながらそう言った。そしてマティアスを水から抱き上げ、水辺の草むらに降ろすと、急いで帰る準備を始める。
「さぁ、マティアス様」
マティアスはグラードに乗せられ、さらに後ろから抱きかかえるようウィルバートも乗った。
「……帰りたくない。僕、ウィルとずっとここに居る」
「……大丈夫です。そんな気持ち、すぐ消えますから」
そう言い、ウィルバートはグラードを走らせた。レオンも繋がれているようで後ろから付いてくる。
ダダッダダッとグラードが猛スピードで丘を下るその振動と、ウィルバートに密着して感じる体温がマティアスの熱をより煽っていた。
「んっ、んあっ!」
必死に耐えるのも、マティアスは馬上で何度か射精をしてしまった。
「マティアス様! もう着きます。お気を確かに!」
城の北門に着くと門番をしていた兵士がマティアスを見て驚いたように声を上げる。
「マティアス殿下⁉」
「湖に落ちて溺れかけたのだ。馬たちを頼む」
「は、はい!」
ウィルバートはそう言ってマティアスを抱えると城へと急ぎ入った。
「まあ! 殿下! 如何されたのです?!」
城内に入りすぐにハンナが騒ぐ声がマティアスの耳にも入った。
「ベレフォード様を呼んでください! マティアス様はお部屋までお運びします!」
ウィルバートはマティアスを寝室へと運び、寝台に横たわらせた。
「マティアス様、ご気分はいかがですか」
ウィルバートが優しく頭を撫でてくれる。
その手の心地よさにマティアスはうっとりとして、手を引寄せ頰擦りをした。
「ウィル……もっと触ってよ……」
「大丈夫です。すぐにベレフォード様が来ます」
その時、寝室の扉が開く音がし、何人かが部屋に入ってきた。ウィルバートはマティアスから手を離し行ってしまった。淋しさと不安が胸の奥に広がる。
「申し訳ございません! アルホの丘にて魔物に遭遇し、マティアス殿下に妖術をかけられました!」
ウィルバートが謝っている声が部屋に響く。
「なんと!」
ベレフォードのそう声を上げ、マティアスに近付いて来た。薄っすら目を開けるとこちらに光る杖をかざしている。
「して、マティアスの状態は?」
さらにイーヴァリの声が聴こえ、マティアスは働かない頭ながら最悪だと思った。
「その……性的な興奮状態が続いております」
ウィルバートの回答にイーヴァリの呆れたような大きな溜息が聴こえる。
「アルホに出た魔物なら低級であろう? ベレフォード。すぐに解除を」
イーヴァリの指示にベレフォードは戸惑ったように言った。
「いや、これは、低級では無さそうですぞ。ブラックストン、それはどんな魔物だったのだ?」
「は、はい。五歳くらいの子供の姿をしており、眼と髪が真っ赤で、宙に浮かんでおりました。炎のような幻覚を操っていて……それで、人の言葉を話していました……」
「人型で言葉を話すとなると、かなりの上位クラス。私でも解除は難しいですぞ」
「そんな……!」
マティアスは遠耳に聴きながらも部屋の空気が絶望に変わったのを感じ取った。
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