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第一章 赤紫の炎⑥
「ただ、掛けられた妖術自体は大したものでは無さそうです。契約で繋ぐような強い拘束力は感じない。恐らくその魔物にとってはイタズラ程度なのでしょう」
「ならば、どうすれば良い」
イーヴァリの冷たく低い声が響く。
「殿下が……ご満足されれば収まるかと」
「娼婦でも充てがえばよいと?」
「そうでございますね……。ですが子が出来てしまう可能性を考えると後にお妃様となられても不足のない方のほうが良いのでは?」
「貴族の娘にこんな状態のマティアスを引き合わせるのか。ありえんだろう」
「しかし、このままでは殿下の生殖機能が心配でございます。ある程度歳上の少々経験がありそうなご婦人がよろしいと思いますが……」
「や、やだっ!」
耳に入ってくるイーヴァリとベレフォードの会話に不快感と恐怖心を感じマティアスは叫んだ。見知らぬ女をこの場に呼ばれて、子が出来るような事をしろと言っている。そんなものは望んではいない。今マティアスの望みはただ一つだった。
「ウィルっ、ウィルじゃなきゃ嫌だっ! ウィル以外に触られたくないっ」
マティアスは寝台の上で這いつくばりながらウィルバートに手を差し伸ばした。ウィルバートはマティアスに駆け寄り手を握り背中をさすりながら言った。
「マティアス様、大丈夫です。きっと優しくお相手してくださる女性がすぐに来ますので、」
「やめろ! な、なんでお前がそんなこと言うんだよ……!」
苦しくて辛くて涙がボダボダと溢れる。
「ウィルじゃなきゃ、やだ……」
マティアスはウィルバートの手に両手でしがみ着いた。少しでも触れていたい。そばにいてほしい。想いが胸で膨張しすぎて苦しかった。
「……ベレフォード。後は任せる」
突然イーヴァリがそう言い、静かに部屋を出て行った。
「はぁ。まったく。やれやれですな」
ベレフォードは溜息をつきながら寝台へと近付き、マティアスからウィルバートを引き剥がした。
「や、やだ! ウィル!」
「あーあー、すぐ返しますから。少しお待ちなされ」
ベレフォードはそう言ってウィルバートを部屋の隅に連れて行った。そしてヒソヒソとウィルバートに何か話し始めた。
「……しかし! 私はっ!」
「いや、もうそれしかないのだ」
「で、ですが……」
「そなた……の経験は?」
「……すが、ですがそれは……」
「よいか慎重にな、決して……ないぞ」
「……そんなっ」
ほとんど聞き取れない二人の会話が続いていたが、突然ベレフォードが大きな声ではっきりと言った。
「覚悟を決めよ。もう道はないのだ!」
次の瞬間、ベレフォードは杖を構えた。
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