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第一章 自覚した想い①

 静まり返った暗い部屋で、閉じられた分厚いカーテンの隙間から光の筋が差し込んでいた。  どれくらい時間が経っただろうか。朝なのか昼なのかもよくわからない。薄い幕が下ろされた天蓋付きの寝台でマティアスは一人目を覚ました。    やけに重たく感じる身体を起こした途端、ズクッと下半身のあらぬ場所が疼いた。 「っ……!」  尻の奥深くに何か挟まっているような感覚がする。その感覚によりマティアスは何かあったのかを思い出した。 「な、何という事だ……」  アルホの丘で魔物に遭遇して妖術を掛けられた。そのせいで性的に異常な興奮を(きた)し、ウィルバートに自ら迫った。  どうやって城まで帰ってきたのかよく覚えていないが、最終的にここでウィルバートと身体を繋げた記憶が残っている。……しかもかなり鮮明にだ。 『男と女が子を成す行為を真似るのです』  ウィルバートが言った言葉が蘇る。さらに濃厚なキスや激しい行為を思い出し、身体の奥が熱くなる。  マティアスは今までウィルバートを性的な対象として見ているつもりは無かった。しかし妖術が解け頭がはっきりとした今ではわかる。 (私はずっとウィルが好きだったんだ……)  心の奥底に出来ていたそれは何かヴェールに包まれながらもずっとそこに存在していた。確かに存在し続けていたのだ。  それをあの魔物が破った。何が目的だったのかはわからないが。  マティアスは枕に抱きつき悶絶した。  恥ずかしくてウィルバートにどんな顔をして会ったら良いかわからない。だがしかし、それよりも嬉しいと言う気持ちが大きかった。 「マティアス殿下、お目覚めですか?」  天蓋の外からハンナの声がした。 「ああ、今起きた。何時だ?」 「もうすぐ正午でございますよ」  ハンナがそう言いながらカーテンを開ける。室内に強烈な陽の光が入り込んできた。だるい身体には強すぎてマティアスは手で顔に当たる光を遮りながらハンナに聞いた。 「ウィルは?」  ハンナは一瞬驚いたように静止した。そして天蓋の薄い布を開け支柱に留めながらぶっきらぼうに言った。 「御安心ください。あの者とはしばらく顔を合わせることは無いでしょうから」 「は? どういう意味だ?」  ハンナの言葉が理解できず尋ねる。 「マティアス殿下の護衛に失敗したんですもの。罰金と謹慎処分が下ったようですよ」 「はぁ⁉」  マティアスの驚いた声が寝室に響き渡る。  そんなマティアスに構わずハンナはマティアスの顔を覗き込んだ。 「マティアス殿下。昨日のことは陛下とベレフォード様、クランツ隊長、そして私しか存じておりません。幸い殿下は男児でございます。それこそ犬にでも噛まれたと思ってお忘れなさい」 (結構な人数が知っているじゃないか……)  そう思いつつも今はそんな事よりウィルバートへの罰の方が問題だ。 「ハンナ、着替えを」 「殿下、今日は一日安静になさいませ」  マティアスの指示にハンナは眉を顰めた。 「いや、陛下に会いに行く。着替えを」  マティアスの珍しく強い口調にハンナはしぶしぶ着替えの用意に出て行った。

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