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第一章 自覚した想い⑤

 確かに昨日は異常だったと思う。しかしそれは本能が剥き出しになったような感覚で、それが全部偽りの感情だったとはとても思えない。それに今は頭もしっかり働いていると感じる。 「ん~、そもそも私には解除できない術なのだが。どれどれ」  ベレフォードはマティアスに杖をかざした。光が顔や胸を照らしマティアスは眩しさに目をしかめた。 「ふむ……。確かにまだ術の痕跡を感じますな」 「やっぱり……」  ベレフォードの回答にウィルバートが納得したように言った。 「そ、そんな! 私がウィルを……す、好きなのは妖術のせいだと言うのか!」 「まあ、一概には言えませんがな」 「いえ、絶対そうです。これまでマティアス様からそんな雰囲気は感じたことがありませんので」 「私はまともだ!」 「酔っぱらいは酔ってないと言うものです」  マティアスはウィルバートを睨んだ。 (この、分からず屋!) 「やれやれ……。とりあえずブラックストンは謹慎中だ。部屋に戻りなさい」  ベレフォードに促されてウィルバートは「承知しました」と頭を下げ退出していった。 「さて殿下、お茶でも飲んでいきなされ」  ぷりぷりと怒っているマティアスはベレフォードに促されて古ぼけた椅子に腰を下ろした。ガラスで出来たグニャグニャのカップに宙に浮いたポットから淡い黄緑のお茶を注がれる。 「高度な妖術と本物の恋心というのは見分けがつきませんし、どちらも私に解くことは出来ません」  マティアスはベレフォードの話を聞きながらお茶を啜った。庭に生えている雑草と麦藁を握りつぶしたような匂いに顔を顰める。 「しかしながら、どちらにせよマティアス殿下のお立場を考えると、その想いは納めらたほうが良いですな」 「納めるとは?」 「その想いを箱に入れて心の奥底にしまっておくのです」 「しまっておいてどうするのだ」  マティアスが聞くとベレフォードはその雑草のような香りのお茶を啜り、のんびりとした調子で答えた。 「そのままずっとしまっておくのです。そのうち気にならなくなって忘れます。ふとした時にその箱を見つけることもあるでしょう。でも時が経てば『ああ、そう言えばこんな想いもあったな』と思うようになります」 「そ、そんなの……無理だ」 「殿下はこれからすぐにでもお妃様を娶られることになります。その想いを表に出したままでは苦しいのは殿下ご自身ですぞ」  マティアスは口をつぐんだ。  これまでウィルバートの存在と自身の結婚を合わせて考えたことが無かった。  ウィルバートがそばにいれば『想いを箱に入れて心の奥底にしまっておく』なんて事はどう考えても無理だ。きっと溢れ出てきてしまう。ではウィルバートを遠ざけるか。騎士に任命するのをやめるか……。  マティアスは考えれば考えるほど身がバラバラになりそうなほど苦しくなった。

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