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第一章 嫉妬①
アルホの丘で魔物に襲われてから九日が過ぎた。
ウィルバートは謹慎中全く姿を見せず、謹慎が明けてからもマティアスの前に現れることは無かった。
マティアスの誕生日である十月二日まであと約二週間。誕生日当日は成人の儀があり、マティアスはその翌日には騎士の任命式を行うつもりでいた。しかし先日のウィルバートの様子からすると騎士になることを了承してくれるかわからなくなった。
式の直前でこんな事になるなど、想像もしていなかった。だが、これまで以上にマティアスはウィルバートを自分のものにしたいと言う想いが強くなっている。
ベレフォードには『想いを納めろ』と言われたものの、この一週間でその想いは募るばかりだ。
マティアスはこれまで思春期とは思えない淡白さで、性欲もほとんど無いと言って良い状態だった。自身で慰めることもほとんどせず、たまに寝ているうちに精を漏らすことがあるくらいだ。
しかしウィルバートに抱かれて、人肌の心地よさを知ってしまった身体は一気に覚醒し、夜な夜なマティアスを熱く苦しめた。最初の妖術による興奮とは違い、何度か精を吐けばひとまずは落ち着くのだが、心は淋しさと虚しさが残る。
マティアスはウィルバートともう一度話したいと思った。
もう妖術のせいだろうがなんでもいい。今、マティアスはウィルバートが好きなのだ。その事実をウィルバートに認めさせてこの想いを受け入れて欲しい。
マティアスはウィルバートに部屋まで来るよう、メイドに伝えに行かせることにした。ハンナでは逆に説教されてウィルバートを連れてきてくれない可能性が高いので、事情を知らない若いメイドを選んだ。
指示してから十五分ほどしてマティアスの居室の扉がノックされた。
「入れ」
喜んで返事をしたが、入ってきたのはメイド一人だった。
「ブラックストン様は本日一日ご不在とのことでした」
思いがけない回答にマティアスは眉を寄せる。一日不在などマティアスは何も聞いていない。
「何処に行っているんだ?」
「リンデロート伯爵邸へ行っているとのことです。戻られましたら殿下のお部屋へ来るようにと言付けて参りました」
「そうか。ありがとう。下がって良いぞ」
メイドは頭を下げ退出していった。
(リンデロート? 誰だったか……)
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