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第一章 嫉妬④
「ウィルバートはすぐには戻れません。なので私が代わりを」
それを聞いてマティアスは首を横に振った。
「い、いい。ウィル以外に、触られたくない……!」
マティアスはシャツの合わせをぎゅっと握り、脚も閉じ身を小さくした。
「ですが、そのままですとお子を作ることが出来なくなってしまうかもしれません」
そう言いながらアーロンがにじり寄ってくる。
「わ、私は、子が出来なくなっても構わんっ」
「……殿下、我が国の現状を知っていながら、そんな戯言は許されませんよ」
その眼光が鋭くなり、アーロンはマティアスの足首を掴みグイッと引き寄せた。
「御身にはアルヴァンデール王家の血を繋ぐ大切な役割がございます。もう成人されるのですからお立場をわきまえていただかないと」
足首からふくらはぎ、太腿にかけてアーロンが撫でてくる。
「や……アーロン、嫌だっ」
「目を閉じて。ウィルバートだと思ってくださって結構ですから」
そんな事を言われてもアーロンはアーロンであり、ウィルバートではない。マティアスは触れられている事に不快感しか感じなかった。
アーロンの手が再びマティアスの内腿を這い、マティアスの中心部に触れようとした時、
「嫌だっ!」
マティアスはアーロンから逃げた。
言うことを聞かない身体に必死に力を込め、アーロンの手を脚で振り払い、寝台から転げ落ちるように降りた。
「はぁ……殿下……」
アーロンが溜め息をつきながらゆっくりと追いかけてくる。マティアスは急ぎ思い立つある場所へと急いだ。
「殿下! そこは駄目です!」
マティアスの思惑に気付いたアーロンが慌てて追いかけてくる。
マティアスは部屋の角の壁に駆け寄り体当たりした。壁はガコンと音を立てて開き、マティアスはその隙間に身を滑り込ませた。
「殿下!」
隙間から慌てたアーロンの顔を見つつ、マティアスはその壁を閉めた。壁は再びガコンと音を立てて閉まった。
そこは王族の部屋につけられている脱出用の隠し通路だった。壁に擬態されたその扉は閉まると自動的に閂 が降り、外側から開けることはできなくなる。さらに通路はそれぞれの部屋から独立しており、別の部屋から回り込むことは出来ない。脱出先も秘匿とされどこに通じているか王族でも知らない。
「マティアス殿下! 開けてください!」
壁、もとい扉の向こうからアーロンが必死に呼びかけてくる。しばらく扉を叩いていたアーロンだったが、そのうちベレフォードを呼びに行ったようで静かになった。
通路には蝋燭の火が自動で灯された。薄暗いその石造りの通路にマティアスはヘナヘナと座りこんだ。シャツ一枚越しに石の冷たさを感じる。
「子が……出来ない身体になったら、王子、辞めても良いのかな……」
マティアスは一人で小さく呟いた。
そうなったらウィルバートを騎士にする事は出来なくなる。王子で無くなってもウィルバートはマティアスに付いてきてくれるだろうか。いや、ウィルバートは伯爵の娘と結婚するのだ。どちらにせよマティアスはウィルバートの一番では無くなる。
「う……ウィル……」
マティアスは身体の辛さと心の辛さ両方に押しつぶされそうになりながら身を丸めた。
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