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第一章 誓いと未来③

「マティアス殿下」  盛大な晩餐会を終え、来賓をほぼ見送り終えた頃、マティアスはある人物に声をかけられた。 「サムエル殿下」  振り向くとそこには従叔父のサムエルがいた。 「遅くまでお付き合い頂いてありがとうございました」  マティアスは丁寧に礼を述べた。  サムエルは淡白な顔に掛けられた華奢な銀の丸眼鏡を押し上げながら客がほとんど帰った晩餐会会場を見渡した。 「やはり、王位継承第一位となると成人の儀も盛大だな。私の時の倍は招待客がいたよ」  マティアスは苦笑いで誤魔化した。  一見嫌味のように聴こえるが、実は単なる感想である事をマティアスは分かっていた。  幼い頃、素っ気無い態度を取られて落ち込んだ事もあったが、サムエルは本や生物の研究が好きで、あまり人付き合いは得意では無く、悪気は無かったと後にわかった。  時が経つに連れ同じ王子として顔を合わせる事も多く、会えば多少立ち話する程度には親しくなっている。  サムエルはイーヴァリの弟の息子で、マティアスに次ぐ王位継承第二位に当たるが、王位に対する野心的なものが一切ない。今は輝飛竜の繁殖に力を入れているらしい。  現在二十三歳で、三年前に妃レベッカを娶り、翌年には王子スレヴィが誕生している。 「あ、レベッカ様が第二子をご懐妊されたと聞きました。おめでとうございます」  マティアスは今日イーヴァリから聞いた話を思い出しサムエルに祝辞を述べた。 「あー、陛下はもう話されたのか。マティアス殿下にも早くしろと言っているのだな」  サムエルは呆れたように言ったがまさにその通りだった。イーヴァリはマティアスに『成人したのだからすぐにでも妃を娶れ』と言ってきたのだ。 「私の子では大した魔力は期待出来ないからな。スレヴィも妖精の光は見えているらしいが、どうやら形までは認識してないらしい。きっと成長すればいずれ見えなくなる。だから陛下はマティアス殿下の子に期待しているのだろうな」 「私も魔力がありせんので、あまり期待は出来ないと思うんですけどね」  そう言いながらもマティアスは幼少の頃、妖精の姿形どころか表情まで認識していた。たぶん血筋的にはマティアスの方が魔力が強い子が生まれる可能性が高い。 「しかし親心としては、この王家に生まれて、我が子の魔力がいずれ消えるなら……正直そのほうが嬉しいよ」  サムエルが薄く微笑みを浮かべる。 「もちろん陛下には言えないけどな。魔力を持っていれば『厄災』時には山に送られるのだから。我が子にそんなことさせたい親は居ない」 「……やっぱり、また数十年で『黒霧の厄災』は起こるのでしょうか」 「どうだろうね。これまでの歴史で二百年から三百年置きに起こっていたのに、今回はわずか三十二年で起きてしまったからね。もう予測出来ないよ。しかもそれを鎮められる『魂の解放』を使える王家の人間が今や一人もいない。そりゃ陛下は私たちに早く子供を作れと急かすよね。その気持も理解はできるが」  それはまるで生贄を用意するために妃を娶り子を作るようなものだ。 「なんで、こんな事になっているんでしょうね……」 「まったくだよ」  マティアスの呟きにサムエルが完全に同意した。  二人の王子。  現状、この国の行く末はこの二人に頼るしか無い状態だった。

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