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第一章 告白⑥

「ウィル! ここから二人で逃げよう!」 「マティアス様……」  ウィルバートの視線が揺れている。 「アーロン、早く開けてくれ!」  二人を見つめて立っているだけのアーロンにマティアスは呼び掛けた。するとウィルバートは静かに言った。 「マティアス様……私はここにいます」 「何を言っている?! このままでは朝には処刑されるのだぞ!」 「私は貴方にこの国を見捨てさせたくない。貴方はきっと良い王になる」  優しい瞳が、だが力強い瞳がマティアスを見つめていた。マティアスは必死に首を横に振った。 「私が! 私が王子でいるのは、ウィルを騎士にしたかったからだ! それだけなんだ! 自分の事しか考えてないのに良い王なんかになれない!」  ウィルバートはそれをきいてフフッとのんきに笑う。 「そうですね。貴方は我が儘で、自分勝手で、まだまだ子供で。でも民に寄り添おうとする優しい方だ。……それなのに、私は貴方に欲望を抱くようになってしまった。クランツ隊長がそれに気付いて、ボルデ遠征を進めてきたんです。きっと成人されれば叔父のクラウス殿下の様に雄々しくなられるからと……」  ウィルバートが愛おしげな目でマティアスを見つめてくる。マティアスは唇を震わせた。 「だけど、四年ぶりに見た貴方はさらに美しくなっていて……。隊長には『覚悟して帰って来い』と手紙で知らされていたのですが、あまりに想像以上で……想いが膨れ上がってしまった……」  マティアスはウィルバートの手に自身の手を重ね頰擦りした。 「もっと早く言ってよ! ウィルにそんなに想われてたなんて……私は嬉しい……」 「私の心がもっと強くて、ちゃんと騎士として貴方をお支え出来ればよかったのに……申し訳ありません……」 「ウィル……一緒に逃げて一緒に生きよう!」 「マティアス様、私はどのような形でも貴方のお側におります。死して魂となってもです。……貴方がそれを許すならば」 「そ、そんなのっ、嫌だっ!」  ウィルバートから『死』と言う言葉が出てマティアスは戦慄した。この男は本当に処刑されることを受け入れてしまっている。  マティアスはボタボタと涙が頰を伝うのを感じた。 「マティアス様、陛下が言うように私は卑怯者です。貴方がそうやって泣いてくださることを喜んでいる。貴方が悲しんでも、死んで貴方の側に居られるならいいと思っています。私こそ自分勝手だ……」 「ウィル……」 「妃を娶り、沢山子を儲けてください。『黒霧の厄災』に対処できるのはもう貴方の血だけだ」 「……ウィルはっ! 私が女を抱いても平気なのか!?」  ウィルバートは困ったように笑った。

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