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第一章 告白⑦

「もし『黒霧の厄災』が貴方の存命中にまた起こったら、私は全力で貴方を助けますよ。ただの人の魂にどれだけの事ができるかは分からないけれど、それでも……」 「ウィル! やめてくれっ! 私はお前を愛してる。共に生きていたいんだ……」 「マティアス様のその恋のような感情は妖術です。私が死ねばきっと消えます」 「消えないよ! 消える訳が無い! だって、ウィルに縁談が来た時、私は嫉妬したものっ。ウィルが知らない女と結婚し子を作るって考えたら悔しくて堪らなかった……」  マティアスの言葉にウィルバートは少し驚いた様子で目を見開いたがふわりと笑い、鉄格子から伸ばした手でマティアスの涙で濡れた頰を優しく撫でた。 「私はマティアス様にこの国を守って欲しいのです。沢山人が死ぬのはもう見たくない……」  ウィルバートの瞳に悲しみが満ちる。  『黒霧の厄災』で失った家族や友たちを思い出しているのだろう。    マティアスは頰を撫でるウィルバートの手に自身の手を重ね、頰擦りした。 「ウィル……お前は酷い男だ。私にお前との幸せより、民を選べと言うのか」 「貴方は民の不幸の上に成り立つ幸せを、幸せだとは感じない人だ」  涙が溢れ出て止まらなかった。  マティアスは民全員を見殺しにしてもウィルバートに生きていて欲しかった。しかしウィルバートはそれを望んでいないし、それを言ったら失望され嫌われてしまいそうで怖い。どうしたら良いのか分からず頭が混乱していた。 「マティアス様……キスしてもいいですか」  黙り込み泣くマティアスにウィルバートが言ってきた。  まるでこれが最期だと言わんばかりのその頼みをマティアスは拒否したかった。しかし、ウィルバートからくちづけを求められるのは初めてで、悲しみの中に嬉しさが確かに存在し、マティアスは拒めなかった。  鉄格子に顔を寄せ唇を差し出した。頬に金属の刺さるような冷たさを感じる。  ウィルバートの温かい手か髪を撫で、唇に柔らかな感触を感じた。唇が唇で挟さまれ、吸われ、舌で撫でられる。マティアスもウィルバートの舌に自身の舌を絡ませた。  粘膜が溶け合うような感覚。ウィルバートと一つに溶け合い永遠に一緒にいたいと強く思った。  ちゅっと音を立て、名残惜しそうにウィルバートが唇を離し、静かに聞いてきた。 「……キスも、私が初めてですか?」  マティアスはウィルバートの黒い瞳を見つめながら頷いた。 「貴方の清らかな唇も身体も奪って、私は本当に騎士失格ですね」  ウィルバートはそう言って、幸せそうに微笑んだ。

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