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第一章 嘆願と脅迫①

「マティアス殿下」  突然、よく知る声に呼ばれマティアスは振り返った。 「ベレフォード……」 「まったく……やることが変わりませんな。陛下はまだご存知では無い。今のうちにお部屋へお戻りください」  ベレフォードは呆れたように言う。それに倣うようにウィルバートも静かに言った。 「マティアス様、どうぞお戻りください。クランツ隊長も罰を受けることになってしまう」  マティアスはアーロンを見た。アーロンは気にするなとでも言うように苦笑いし片手をあげた。 「マティアス様、最期にお会いできて嬉しかった。もう思い残す事はもうありません」 「最期だなんて……言うな……!」  泣いてウィルバートに縋り付くマティアスの腕をベレフォードが掴んだ。 「さあ、殿下」  そのままウィルバートから引き剥がされ、引き摺られるように連れて行かれた。 「ウィル! 嫌だっ、ウィル!」  泣き叫ぶマティアスをウィルバートは檻の中から微笑んで、見つめるだけだった。  ベレフォードに魔術で強制的に歩かされ城内へと連れ戻された。  涙が止まらない。マティアスは昨日成人を迎えたと言うのに子供のように嗚咽を上げていた。  ウィルバートが死ぬ。殺される。  頭がおかしくなりそうだ。 「……マティアス殿下。この状況を変えたいならば、ブラックストンを逃がすなどど考える前に、もう一度陛下へ交渉してみるのが先ですぞ」  泣きじゃくるマティアスにベレフォードがそう進言してきた。 「で、でも……陛下は私の言う事などっ、聞いてくれたことは、無いっ!」 「いやいや、陛下は殿下に一番甘いですぞ。なんだかんだで貴方の望みは何でも叶えてきた」  マティアスには実感がなかった。  イーヴァリはいつも厳しく、『甘い』等という印象は全く無い。 「大事にしている孫だからこそお怒りなのです。そもそも結婚前の王子や王女に王の了承無く触れれば極刑は当然の事。特にブラックストンは陛下の信頼も厚かった。それを裏切ったのですからあの場で首をはねられていてもおかしくは無い」 「でも! 妖術で仕方無くそうなっただけで、事故の様なものだ! そもそも陛下も私の相手をウィルが努めることを許可しただろう!」 「ですが、根幹はブラックストンの欲望が原因です。ブラックストンもすぐに言わずに隠していた。まあ、重過失ですな」 「じゃ、じゃあどうすればいい?!」 「陛下も幾分か冷静になられているでしょう。ブラックストンの命だけは助けてくれとマティアス様からお願いするのです。ただ、先程も申し上げましたが、極刑が当然なのです。無罪放免には絶対にならない。今後ブラックストンとは会うことは出来ないと覚悟なさいませ」  ベレフォードの言葉にマティアスは息を詰まらせた。しかしもはや選択肢は残されていなかった。 ――ウィルが生きてさえいれば……! 「……わかった。陛下に会って、ウィルバート・ブラックストンの減刑を嘆願する」  マティアスは決意しそう言った。

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