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第一章 嘆願と脅迫②
時刻は深夜となり、いつもなら皆が寝台に入っている時間になっていた。
マティアスがイーヴァリの居室を訪れるとイーヴァリは寝支度をすることなく険しい表情で執務机に座っていた。
「陛下、どうかウィルバート・ブラックストンの刑についてお考え直しをお願い致します」
マティアスは泣き腫らした顔でイーヴァリに願い出て、深々と頭を下げた。
「駄目だ」
間髪入れずの拒否。しかしここで引き下がる訳にはいかない。
「陛下! どうか、どうかお願いですっ! 今回の件は私の軽率な行動に大きな原因があります。ウィルは私に恋情を抱いていたかもしれませんが、表に出さず耐えていてくれたのです! それを魔物に揶揄 われただけで……」
「主となる者に欲望を抱くなど以ての外。そのような隙を作ることこそ罪だ」
「ですが、恋とは自分の意思ではどうにもなりらないものです……。陛下、私は……私もウィルバート・ブラックストンを愛しています。ウィルが居ない世界で生きていくなど考えられません」
イーヴァリは深い溜め息をつき額に手をあてた。
「マティアス、それは妖術のせいだ。妖術が解ければ……」
「変わりません。きっと、変わりません」
マティアスはイーヴァリを鋭く睨み言った。
「それでもやはり極刑以外あり得ないとおっしゃるのであれば……私はもう正気を保つ自信がありません。きっとウィルの後を追うことになりましょう」
王に対して明ら様な脅し。もし駄目だったら本当にウィルの後を追うまでだ。
(……ウィルには怒られるだろうけど)
「マティアス、今このアルヴァンデール王国の危機的状況に於いて、自分がどういう立場であるか理解しての発言か」
イーヴァリから激しい怒りの感情が溢れ出ているのをマティアスは感じ取った。これまでならそれに怯み謝ってその場から逃げていただろうが今は違う。マティアスが今一番怖いことはウィルバートの死だった。
「ええ、そうですっ。私は身勝手で自分の事しか考えられない愚か者です! 自分が生きているうちはもう起こらないかもしれない国の危機より、愛する者の方が大事なのです!」
バンッ! とイーヴァリが執務机を掌で叩き立ち上がった。
「お前の母を殺した魔物がまた復活するかもしれないのだぞ!」
怒鳴るイーヴァリにマティアスは一瞬怯んだがそのまま睨み続ける。黙り睨むマティアスにイーヴァリは訥々と語り始めた。
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