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第一章 嘆願と脅迫③

「私が十一の時に起こった『黒霧の厄災』は六 人で戦ったが、生き残ったのは私と弟だけだった。共に戦い死んだ父に代わり私が王となり、側近たちと共に積極的に火焔石を国内外に売りなんとか復興してきた。……しかし、そのわずか三十二年でまた厄災が起こってしまった! 『魂の解放』が使える者はもうセラフィーナとクラウスの二人しかいなかった」  イーヴァリが悔しそうに眉を寄せ、拳を握りしめた。 「『黒霧の厄災』はバルヴィア山に巨大な魔物が現れる。真っ赤な火柱のようなそれは空を覆うほど巨大だ。その周りを無数の黒い妖魔が飛び回り、あたりは真っ黒な毒霧で汚染され、『魂の解放』を使った術者以外はすぐに死んでしまう。『魂の解放』は一生に一度しか使えないアルヴァンデールの血族のみが使える秘術だ。私は十一で使ってしまったから、我が子が戦うと言うのに一緒に行ってやれなかった……」  ベレフォードから何度も聞かされた話だが、イーヴァリから直接聞くのは初めてだった。  当時『魂の解放』が使えたセラフィーナとクラウスはたった二人でバルヴィア山へ向かった。更にこの混乱に乗じて隣国バルテルニア王国が攻め入り、イーヴァリはそちらの制圧に回ったと聞いている。 「マティアス。数が必要なのだ! 過去には二十人で立ち向かい、十八人が帰ったと言う記録もある! だが、たった二人では亡骸すら残らなかった……」  イーヴァリが声を詰まらせる。  冷たく何でも無慈悲な判断を下せる人だと思っていたが、我が子二人を亡くしたのはやはり辛い過去なのだ。  イーヴァリの求めているものが何なのか、マティアスにはよりはっきりとわかった。  マティアスは決意を固めた。  ウィルバートを救う為の決意だ。その為ならなんだって出来る。 「陛下、わかりました。私のウィルバートへの思いは心の奥に納めます。そして……妃を娶ります。子を多く持つことがこの国の最善となるならば妾も何人か持ちましょう。次いつ来るか分からない『黒霧の厄災』に備え、最善を尽くすことを約束します」  イーヴァリは険しい表情でマティアスを見つめ言った。 「マティアス。だが問題はブラックストンが生きている限り、呪いによりお前に突発的な興奮がまた起こる。それを鎮めるにはブラックストンに死んでもらうしか無い」 「……ウィルの私への想いが消えるまで、耐えます」  離れて過ごしたら、ウィルバートにも他に好きな人が出来るかもしれない。盛るような症状が出なくなったらそれがその時なのだ。  近いか遠いか分からない未来にマティアスは胸が締め付けられる思いがした。 「あの様な状態で、耐えられる訳が無い」  しかしイーヴァリはマティアスの決意をきっぱりと否定した。 「いいえ。私は耐えて見せます」  ここで食い下がってしまったら後が無い。マティアスはイーヴァリに必死に訴えた。 「陛下」  するとそれまで黙って聞いていたベレフォードが口を挟んだ。そして言った。 「一つ、方法がありますぞ」

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