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第一章 慟哭と青空①
城内の北の塔に法廷はある。
石造りのその空間は窓もなく、朝なのか夜なのかもわからない。
三百人は入る広い空間だが今日ここにいる者はごくわずかだ。
マティアスはイーヴァリと共に王族専用の二階席に着いていた。階下を見ると裁判官役を兼ねる司祭と二人の兵を従えているアーロン、そしてベレフォードとベレフォードの弟子三人がいる。
イーヴァリはこの一連の問題を公にするつもりは無いようで、この裁判も形ばかりのものだ。
ほとんど待たずして扉開き、ウィルバートが兵士に連れられて入ってきた。簡素な衣服で、少しだけ濃くなったヒゲ、そして腕を前にして手枷を嵌められている。
一昨日の成人の儀で見せた凛々しい軍服姿からの落差にマティアスは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。それでもウィルバートは抵抗するでもなく、ピンと背筋を伸ばしその矜持を保っている。
――コンコン
裁判官が木槌 を鳴らす。
「これより、開廷します。被告人は前へ」
『被告人』と呼ばれたウィルバートが法廷中央の証言台に立った。
そしてなんの前振りもなく裁判官は口を開いた。
「魔物との内通、及び王族への不敬により、被告人ウィルバート・ブラックストンを、記憶剥奪の後、国外追放とする」
罪状と罰が一気に読み上げられた。
それは証言や陳述などを一切省いた裁判とも言えないものだった。
俯いていたウィルバートがバッと顔をあげ裁判官を見た。
「これより刑を執行する」
裁判官がそう言うとベレフォードとその弟子達三人が歩み出てくる。
ウィルバートが一歩後ずさった。そしてその視線が二階席のマティアスに向けられた。
「な、何故です!? 何故殺してくださらないのです!」
「大人しくしろ!」
突然動き出したウィルバートを兵士二人が抑えに入る。だがウィルバートは激しく抵抗しながら叫んだ。
「い、嫌だ! 貴方を忘れて、し、屍となって這いずり回るなんて嫌だ!」
マティアスは息を詰めて震えた。
ウィルバートが嫌がっている。
その表情は困惑と恐怖に満ちていて、マティアスはそんなウィルバートを初めて見た。
しかし、その選択肢以外は死しか無い。
マティアスにはどうしてもこの選択肢を選ぶ事しか出来なかった。
激しく抵抗するウィルバートは、控えていた兵士も加わり四人がかりで石の床にうつ伏せに押さえつけられた。
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