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第一章 慟哭と青空②

「マティアス様っ! 何故っ! 貴方の側を離れないと言ったのに!」  押さえつけられながらも必死に叫ぶウィルバートの頭にベレフォードが杖をかざし、呪文を唱え始めた。 「マティアス様っ!」  マティアスは震えながらそれを見つめた。ウィルバートの目から涙が溢れている。 「……マティアス、下がっていなさい」  イーヴァリがそう声を掛けてきたがマティアスには聴こえなかった。両手を握りしめ唇を押さえるが震えが止まらず歯がガチガチと鳴る。  ウィルバートとベレフォードを取り囲むようにベレフォードの弟子三人が並び杖を構えると、正三角形の青い光が浮かび上がった。  ベレフォードが指示し兵士たちが退く。  ウィルバートはうつ伏せのまま床に貼り付けられたように動けなくなった。 「まっ、マティアス様っ! なぜ、なぜそばにいる事を許してくれないのですかっ」  魔力で囚われながらもウィルバートは必死にマティアスを見ていた。 「い、嫌だっ! 貴方を忘れたくない!」  やがてベレフォードの杖から強い光が出始めた。 「マティアァァス!!!」  ウィルバートは振り絞るよう叫び、そしてスゥーッと全身から力が抜け眠るように静かになった。  ベレフォードの杖がウィルバートの頭から何かを吸い取るように光が杖を辿り端から端へ流れ消えていく。 「あ……やめろ……」  マティアスは震えながら手摺に縋りつき、呟いた。  今、まさにウィルバートから記憶が奪われていく。  マティアスと出会ったあの日や、一緒に過ごした日々。四年間何度もした手紙のやりとり。さらにウィルバートにしか知らない、ウィルバートの親や姉弟の記憶。 「あ……ああ……!」  マティアスは頭を抱えて呻いた。  涙がボタボタと溢れ出てくる。 「マティアス、気をしっかり持て!」  イーヴァリがマティアスの肩を抱き揺する。しかしマティアスには全く聴こえなかった。 「あ……あぁ……」  その時、何が胸の奥で破れた気がした。  それは破れて弾け、洪水のように大量の何かが自身の身を突き破り溢れ出たような感触だった。 「ああああぁぁぁぁ!!」 「いかんっ!!」  イーヴァリが横で何か言った気がした。  大きな爆発音が聴こえた気がした。  周囲の人々が騒いでいるような気がした。  しかし直後マティアスは無音の世界にいた。  見えたのはどこまでも続くような美しい青い空と、その青い空を飛び回る大量の金色の虫。  そのシャラシャラと鳴る美しい羽音だけが聴こえていた。

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