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第一章 二人の庭

「見つけた」  庭の生い茂った植え込みの死角に座り込み泣いていたマティアスは声をかけられて顔を上げた。  優しくほほ笑むウィルバートがそこにいる。  泣いている原因のくせに呑気に笑っていることが腹立たしくてマティアスは再び顔を伏せた。  するとウィルバートが隣に座ってくる気配を感じた。服がギリギリ触れるくらいの距離感だ。  ふと髪にモゾモゾと何か触れる感触がした。不審に思い少し顔を上げて横目で隣を見るとウィルバートが猫じゃらしでマティアスを(くすぐ)っていた。座り込んだ地面に沢山生えているそれだ。 「お前なぁっ!」  マティアスが怒りウィルバートから猫じゃらしをもぎ取る。 「あはははっ」  ウィルバートか声を上げて笑った。 「何笑って……っ! お、お前は、淋しくないのか! よ、四年も離れるんだぞ……!」  怒りながら訴えるとまた涙が溢れてきた。  大人とは言えないがもう子供でもない。淋しいと言うだけでこんなにも泣いてしまうなんて恥ずかしい。それに比べ飄々としているウィルバートが実に腹立たしい。 「……淋しいですよ。凄く」  ウィルバートがぽつりと言った。 「貴方の側を離れるのに、淋しくないわけ無いじゃないですか」  そしてこちらを見て苦しそうな微笑みを浮かべた。マティアスはその表情を見て溜飲が下がる気がした。 「手紙、出しますよ」 「……毎日送ってよ」  ちょっとむくれて、猫じゃらしを弄びながら言った。 「毎日は……定期便が無いから無理かなぁ」  ウィルバートは困ったように頭を掻きながら言う。 「でも定期便に乗せてもらえる限界まで沢山書きますよ」  ウィルバートの返答にマティアスは納得することにした。 「……わかった。私も出すよ」 「本当に!? いつもマティアス様がカノラ村へ手紙を出されているのを見て、実は羨ましい思っていたんです」  ウィルバートはそう言って、本当に楽しみだとわかる笑顔をマティアスに向けた。

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