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第一章 赤紫の炎Ⅱ①
淡い陽だまりのような夢から覚め、マティアスが目を開けると、高く広い六角形の天井が目に写った。
シン……と静まり返った薄暗い空間。
背中の痛さに身を捩ると硬く冷たい石の床に直に寝ていた。
「うっ……」
呻きながら身を起こすとジャラララ……と金属音がした。身体を確認すると薄い木綿の長衣が着せられ、両手両足は鎖に繋がれ石の床に固定されている。
さらに周りを見ると、広い六角形の空間にマティアスの寝ている部分だけ半球状の膜がかかっている。膜は青白く発光していて何かの魔術であることがわかる。
「なん、だ……?」
自分の置かれている状況が理解出来ず、記憶を巡らせた。そして思い出した。最悪の状況を。
「ウィルっ!」
どれくらい寝ていたのだろう。どれくらい時間が経ったのだろうか。途中から記憶がない。ウィルバートはどうなったのだろうか。自分はなぜここに繋がれているのだろうか。
混乱しながらマティアスは鎖を引っ張り揺さぶった。ガンガンガンと石と金属の音が六角形の部屋に響き渡る。立ち上がることは出来るが歩き回ることは出来ない鎖の長さだ。
「クソッ!」
悪態をつき暴れるが鎖はびくともしなかった。
「おお、やっと起きたな」
突然、声がしてマティアスは辺りを見渡した。
人の気配などしなかった。
すると半球状の膜がフッと消えた。
「ここじゃよ」
突然目の前に現れた燃えるように真っ赤な瞳と髪。
マティアスは驚きの息を呑んだ。しかし次の瞬間、もの凄い怒りが沸き起こった。
「貴様ああぁぁぁ!! お前のせいで!!」
それはあのアルホの丘で出会った魔物だった。
マティアスは激昂し、目の前の魔物に飛び掛かろうとした。
ガキンッ!
しかし鎖がそれを阻む。
「クソッ! 外せっ! クソッ、クソッ!」
「王子のくせに口が悪いのう」
暴れまわり息を切らすマティアスに魔物はのんびりとした声色で言った。
「悪かったと思っておる……。お前たちが二人揃って煮えきらない態度をとっておるから、ちょっと背中を押してやろうと思っただけじゃ。なのにヒトの仔ときたら些細なことでワーワーと……」
魔物は空中でくるりと一回転して真面目な顔をマティアスに向けた。
「なあ、ヒトの仔よ。記憶を奪われたあの男。遅かれ早かれ死ぬぞ」
魔物のその言葉にマティアスは固まった。
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