89 / 166
第一章 赤紫の炎Ⅱ④
焦って叫ぶマティアスだが、全身を包む炎か強くなり、金の髪が毛先から炎に舐め取られるように消えていく。それと同時に口の中が物凄く熱くなった。
「うっ……ぐぅっ……!」
左頬の内側がジリジリと焼かれるように熱く、その痛みはどんどん強くなっていき、脳天を突き上げる様な激痛となって襲い掛かった。
「がっ! はぁっ!」
マティアスは顔を抱え倒れると石の床を転げのたうち回った。
「アハハハ! 毛束一つで凄い魔力量じゃ! 想像以上じゃ!」
痛みに耐えるマティアスを尻目に魔物が喜んでいる。
やがて全身や髪を包んでいた炎が消え、口の中の痛みも若干だが和らいできた。マティアスは床に手をつき、荒く呼吸をしながら魔物を恐る恐る見上げた。
バルヴィアと名乗ったその魔物は、子供から十三か十四歳位に見える少年へと姿を変えていた。
そして変わらず真っ赤な瞳でマティアスを見下ろし、ニヤッと笑った。
「契約の印は目立たない所に入れてやったぞ」
どうやらこの口の中の激痛はその印が付けられた痛みらしい。左上奥歯の歯茎と頬の間あたりに痛みの中心を感じる。
「お、お前は……あのバルヴィアなのか?」
マティアスはなんとか身を起こし聞いた。
バラバラに短くなった髪が頬に当り邪魔くさい。
「そう呼ばれる事が多いからそれを名にしたまでだ」
何てことは無いと言うように飄々と応える魔物。
マティアスは睨みながら核心に触れる質問を投げた。
「お前が、お前が『黒霧の厄災』を起こしているのか……!?」
魔物からフッ笑顔が消えた。
そしてゾッとするような冷たい視線を向けて言った。
「わしが起こしているのではない。お前たちヒトが起こしているのだ」
「ど、どう言う意味だ?」
「お前たちのせいでわしはああなる。それをまたお前たちが寄ってたかって攻撃してきて封印される」
「ど、どうしたら厄災を起こさずに済むんだ?!」
マティアスは必死に聞いた。
もしかしたら何百年と続いてきたアルヴァンデール王国の悲劇に終止符を打てるかもしれない。
「石を使わなければいいだけじゃ」
「石……火焔石か……!」
バルヴィアがあっさりと答え、マティアスは驚いた。
バルヴィアが言う石とはきっとバルヴィア山でしか採れない火焔石のことだ。
「お前のジジイ達はもう気付き始めているぞ」
「陛下とベレフォードか……?!」
マティアスは驚いた。そんなことは一切聞かされていない。マティアスの中で不信感が沸々と湧いてくる。
「こんなにヒトの仔と話したのは何百年ぶりかの。そろそろお暇しよう」
「ま、待て! 『黒霧の厄災』のこともっと教えてくれ!」
「ハハハッ、もう話たであろう。王としてお前は石を使わせないよう精々頑張れ。お前の魔力を手に入れたわしが暴走すれば封印するのは大変であろうな」
バルヴィアはニヤニヤしながら言う。
「わ、私に魔力なんか……」
「何を言う。先程塔を一つ吹き飛ばしたくせに」
「……は?」
「では、三年後にまた会おう。マティアス」
そう言ってバルヴィアは炎を纏い燃え尽きるように消えて行った。
ともだちにシェアしよう!