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第一章 祖父と孫③
「それで私を恐れてあの部屋に……」
「どうやって破ったのです!? あの部屋はこの城で一番強い結界が張られておるっ!」
あの青い半球状の膜はベレフォードの魔術だったのだろう。部屋自体に妖精が居なかったことからも魔力自体を無効化する仕掛けがあったようだ。
「私が破ったのではない。あの魔物が来た。私に呪いをかけたあの魔物だ」
「な、なんじゃと!?」
ベレフォードどころかイーヴァリからも動揺が伝わってきた。
バルヴィアはベレフォードの術をあっさり破りあの部屋に入って来たと言うことだ。
「まさかマティアス……髪を対価に……!」
察しが良いイーヴァリがマティアスに聞いてきた。マティアスはぽつりと呟いた。
「……ウィルの命、守ってくれるって言われたから…」
マティアスの答えにイーヴァリが声を荒げる。
「な、なんてことを……! 魔物と契約したのか!?」
「記憶を消すの、一歩間違えれば人らしく生きる事も出来なくなるって言われた……」
「そ、そんな雑な術はかけておりませんぞ!」
「じゃあ、フォルシュランドとの国境付近の森にウィルを置き去りにしたって言うのも嘘?」
マティアスの言ったことで、二人が息を詰まらせる。
「赤子で無くてもさ、自分が何者なのかも分からなくなった人が、森で生きていけると思う?」
「……マティアス。人は何かの拍子に死んでしまうことはある」
「そういうことじゃないよ!!」
マティアスが怒鳴ると空気がたわみ、窓に嵌め込まれた円形のガラスの半数がバンッと強い音を立てて一気に割れた。
「処刑との引き換えに記憶を奪うことを了承した。なのに結局二人はウィルが死んでも良いと思ってたんだ……」
怒りで髪が逆立つ。周りにいた金の妖精たちもマティアスの心の動きに連動するように激しく飛び回りっていた。
「殿下っ! そう言う訳ではございませんぞ! 流刑になった者がその先で生き残るかどうかはその者の運命です」
「ははっ、そうだね……。私が無知で世間知らずな子供だったから、皆にそうやって騙されるんだ……」
「マティアス……」
マティアスは自虐的な笑いを浮かべた。
「ねぇ、火焔石を使わなければ『黒霧の厄災』は起らないってのも知ってたの?」
「そ、それは誰から聞いた情報ですか?!」
「本人からだよ」
「本人とは……まさか!」
「そうだよ。あの魔物は契約の時バルヴィアと名乗った」
「な、なんてことだ……! マティアス、お前はバルヴィアと契約したと言うのか?!」
イーヴァリが怒鳴り、体調の悪さも気にせず寝台から身を乗り出した。
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