93 / 153
第一章 祖父と孫④
「ねぇ! 答えてよ! 火焔石、使わなければ厄災は起きないって知ってたの?!」
マティアスはさらに強く質問を投げかける。
イーヴァリは身を乗り出し、片腕で上掛けを強く握りしめている。そして苦しげに言った。
「……十二年前の厄災の後、火焔石の採掘量が関係しているのではないかと思い、ベレフォードと共に過去の帳簿などを調べてきた。だが確信を得られる域では無かった。我々が見当をつけていたのは採掘量だったが、本当は使用量だったのか……」
「採掘量でも使用量でもどっちでもいいよ! そんな手かがりがあったのに私やサムエル殿下に子を作れって言い続けてたの?」
「確信があった訳では無い! 外れた場合の対策も必要だ!」
「だけど、言わないのは卑怯だ……。そんな事も言わずに、戦わせる為だけに愛してもいない女性と子を作るなんて……」
マティアスは怒りで震えていた。
「母さまには駆け落ちまで黙認したくせに……貴方自身だってお祖母様以外の妃は娶らなかったのに……私だけ、私だけ愛する人と一緒にいられないなんて……ずるいよ!」
涙が溢れてきた。
マティアスもわかってはいた。
母セラフィーナが父と駆け落ち同然で結婚した時は、次の『黒霧の厄災』は二百年は先だと思われていて、イーヴァリもそこまで考えていなかった。
だけどそれが運命だと言われても心が納得できずにいる。自分だけなぜ愛する人と一緒に居てはいけなかったのか。
しかし、マティアスは決意し言葉を続けた。
「でも……ウィルがこの国を守れって言ったから……、ウィルがこの国を愛してたから……、私はこの国を守りたい。火焔石はもう使わせない! 貴方のことは許せないけど、私には民を導く力が足りない……だから……」
マティアスは涙を流したがらイーヴァリを見つめ訴えた。
「力を貸してください。おじい様……」
「マティアス……」
イーヴァリはヨロヨロと寝台から降り、マティアスに近づくと残った片手でマティアスを抱き締めた。
「許せとはいわん。だが今、私とお前の目的は一致した。これから全力でお前を支えることを誓おう……」
イーヴァリはそう言ってマティアスの短くなった髪を撫でた。
第一章 未熟な王子と暫定騎士
完
ともだちにシェアしよう!