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第二章 フォルシュランド③
「カイにもう気持ちが無いと言ったら嘘になるけど……、好きでもない人と結婚するのが幸せだとは思えないわ。アルト兄さんにもそう伝えたの。私、ここに残っても結婚する気は無いって」
ニーナは十九歳。きっと友人たちの半数以上は既に嫁ぎ、残りも嫁ぎ先が決まっていない者はほぼいないだろう。もしかしたらアルトはこのまま行き遅れの妹を実家に住まわせるよりは、ヨエルに同行させた方が親戚縁者の目から遠ざけられて良いと考えたのかもしれない。
「それにヨエル兄さんもカイも独身でしょ? 所帯を持ってたら出来ないような挑戦をしようとしてる。私もそこに混ぜて欲しいの! きっと役に立てるわ!」
ニーナは目をキラキラと輝かせた。ヨエルの向上心に近いものを感じる。兄妹というものは実によく似ている。
「ヨエルは男だ。経営が軌道に乗った時、結婚しようと思えば出来る。でも君は女だ。後で結婚したいと思っても難しくなる」
「好きな人となら結婚したいけど、私には結婚が人生の目的じゃないの。ねぇ、カイは知ってる? アルヴァンデールの今の王様、もう二十代半ばなのに独身だそうよ。でも凄い敏腕で若いのにどんどん改革してるんですって!」
カイもアルヴァンデール王国については調べていたので知っていた。しかしカイがそれを知った時、『国王と言う立場で結婚しないなんて、なんて無責任な奴』と言う印象だった。
そもそもただの商人の娘が異国の王様に憧れて結婚を拒否するのはかなり馬鹿げている。しかし、ニーナがただ自分を追いかけて来るわけではなく、それなりに覚悟を決めての行動であるならば、もはやカイに止める権利もない。
「わかったよ。考えがあっての事ならいいんだ」
カイの答えにニーナはニカッと可愛らしい笑顔を浮かべた。
「私、頑張るから! これからもよろしくね!」
ニーナとの話を終えてダイニングに戻るとヨエルがコソコソ聞いてきた。
「で? 諦めてくれたか?」
「……来るって」
「なっ! お前、ちゃんと説得しろよ!」
「いや、俺目当てで来る訳じゃないみたいだから。なら止める権利は俺には無いだろ。他人の人生に口は出せないよ。実の兄ならともかく?」
カイはそう言って“ニーナの兄”を見た。
ヨエルはぐぬぬ、と息を詰まらせると席を立った。
「ニーナ、ちょっとよく話そう!」
ヨエルが台所に居るニーナを呼びに行く。
カイはテーブルに置かれたパンを取り、齧りながら兄妹の動向を見ていた。
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