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第二章 フォルシュランド④

「で、どうなった?」  アールグレーン家長男のアルトが在庫の生地やボタンなどのパーツを餞別に分けてくれると言うのでヨエルとカイはアルトについて倉庫で物品を見ていた。その時アルトがニヤニヤしながら聞いてきた。 「兄さん、なんでニーナに行っていいって言ったんだよ……」 「いいなんて言ってないぞ。『ヨエルが良いって言うならいいぞ』って言ったんだ」 「そんな丸投げな……」 「いやだってさ、あいつ言い出したら聞かないし、嫁にも行かずこの家に居座られるよりいいかなって」  どうやらカイの予想は当たっていたようだ。 「あと五年もしてニーナが完全に行き遅れたら、カイも貰いやすくなるだろう?」  アルトがそう言ってカイにニヤけた視線を向けてくる。 「俺は結婚しませんよ。一人だけを一途に、ってのが無理なので」  カイは物品を物色しながら答えた。『あげる』と言われてノコノコ来たが、在庫品だけあってあまり良いものがない。どれも古臭く流行遅れの印象だ。 「アハハハ、奇遇だなぁ。私もだよ」  既に結婚して子供が三人もいるのにアルトがそう笑う。 「ま、そう言わず、連れてってやってくれよ」 「あま、普通に使えるとは思うけどさ……」  ヨエルか渋々応える。兄なりに妹を心配しているのだろうが、確かに家事をしてくれる人がいるのは助かる。  カイはそう考えながら掌サイズの小箱を手に取り開けた。 「アルト、これも頂けますか?」  中身を見せるとアルトは「おっ!」と驚いて声を上げた。 「そんなのあった?」  中身は黒真珠で出来たボタンだった。真珠を二つに割り、半球状にして台座に固定してある。台座の形状もシンプルで流行を追ってない分、今でも十分に使えそうだ。 「良いの見つけたなぁ。いいよ。持って行って」 「ありがとうございます」  カイは礼を言ってその箱を持って行く荷物へ入れた。  翌々日、三人は荷馬車に大量の荷物を積んでアルヴァンデール王国へと出発した。 「なんか、こんなに積んでいると山賊に襲われそうね……」  ニーナが不安げに荷台を見つめる。 「まあ、フォルシュランドからアルヴァンデール王国までの街道は比較的治安が良いから大丈夫だと思うけどね」  ヨエルはそう答えた。  一応護身用の剣も持っている。 (人数によるけど、大抵は俺一人で倒せると思うしなぁ)  カイは口には出さないが、かつて放浪していた頃の事を思い出していた。  森で野宿しているとよく賊に襲われた。しかし思ったより賊達は弱く、一人から剣を奪ってしまえば後は比較的簡単だった。 (むしろ荷物一式手に入って好都合だったなぁ)  そんな事をぼんやりと考えながら、カイはアルヴァンデール王国に向けて、馬車を走らせた。

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