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第二章 閑古鳥②

 ヨエルが帳簿から目をあげカイを見た。 「『そんなことないよ』と言ってやりたいが……もう崖っぷちだから、そうも言ってられないな」 「ああ。何がズレているのか見極めないと、もう後が無い」  カイは強い目線をヨエルに向けた。  その時、カランカランとドアベルが鳴り、一人の人物が入ってきた。 「ミルヴァ様! いらっしゃいませ!」 「ごきげんよう」  ヨエルが営業用の笑顔を浮かべて出迎えたのはミルヴァ・ルンダール伯爵夫人。この家の大家で、五十歳くらいのふくよかなご婦人だ。 「お仕事の方はいかが?」 「ええ、日々探究しておりますよ!」  ミルヴァが工房の中を眺めながら聞いてきた質問にヨエルははぐらかした答えをした。 「あまり成果は出でないようねぇ」  しっかり見破られたその答えにヨエルは引き攣った笑いを浮かべた。 「家は工房らしくなったじゃない。昔メイド用に建てた家だったから、大丈夫かしらと思っていたのだけど」  ヨエルとカイはこっそり顔を見合わせた。 (やっぱり、使用人用の小屋だったのか……)  ミルヴァはヨエルの勧めで来客用のソファに腰を下ろした。一応工房に誂えたこの応接用ソファは現状ミルヴァしか座ってない。  すぐさまニーナがお茶を出し、ミルヴァは「ありがとう」と笑顔で礼を言った。 「で、三ヶ月で何件依頼を受けたの?」  ミルヴァはソファの向かいに座ったヨエルとカイに直球で聞いてきた。 「えっと、多くは無いですね……」 「はっきりおっしゃい。貴方達が家賃を払えないと私も困るのよ」  ヨエルのはぐらかした回答にミルヴァは一見穏やかだが、喝を入れるかのように力強い言葉をぶつけてきた。 「主人には『フォルシュランドの人気テーラーだ』って言って説得したんだから。三ヶ月で店を畳まれては恥よ」 「一件です」  カイはそうきっぱり言った。 「一件……」  カイの発言にミルヴァは眉間にシワを寄せる。 「ミルヴァ様、恥を忍んでお聞き致します。何がいけないのか、おわかりになりますか?」  カイはミルヴァに素直に聞くことにした。ミルヴァ以外にこの国で頼れる人は居ないのだ。

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